明日は午前11:20分オープン

 先日のこと、福山駅の「サンステ」内のトンカツ屋(さぼてん)さんで妻と遅い昼食をとっていた。店内の明るさには不似合いな渋いサックスのBGMが流れていた。ジャズ喫茶ならぬ、ジャズトンカツ屋、客は僕たち二人だけだった。NHKTVで近々名作映画の特集があるらしい、と、彼女が言う。
「『カサブランカ』って、子どもの頃、何がいいのかさっぱりわからなかった」
「うん、ぜーんぜん、わかんなかった。どこがカッコいいのか」
「あれって、結局、大義のために旅立つ女性を男の人が理解してあげるっていう話よね」
「ちがうだろう、結局、昔の男の方がいいっていう女性を許す男の話でしょ」
「ええぇ、反ファシズム、反ナチのための戦いを擁護する話だって」
「いや、全体のプロットはそうだけど、酒場のリックからすれば、どうなのかなぁ。だいたい、あのラ・マルセイエーズをみんなで歌いだすシーンってなんか苦手なんだよね。とってつけたみたいで。もっと、アンニュイに、ドイツ軍の将校たちが軍歌を歌おうがどうしようが、完璧に無視するような雰囲気でよかったんじゃないかって、学生時代にあらためて見直したときに思った」
 どうでもいいような話で、トンカツが出てくるまで、ひたすらキャベツを食べ続けながら(結局おかわりした)、お互いにあやふやな記憶を頼りに話をしていると、突然、BGMが、As Time Goes By.
 へぇーってことで、なんとなくこの話は終わった。
 「美しい友情の始まり」ということもなく。