「合格証をもつ手がふるえています」

午後4時過ぎのことだ、愛光中学の合格発表はきょうのはずだよな、と思って、愛光のホームページを開き入試要項で確認した。13日水曜日。朝、「資源ごみ」を出したから水曜日。間違いない。そろそろか、、、
と、その時、電話が鳴った。
ぴんと来た。間違いなく愛光の結果だ。
予想が外れたときのことも考えて、ごく普通にでた。
「はい、LEC進学教室村上です」
「Tです、、、(やっぱりTさん、なんか明るい声だなぁ、これは、、)
 愛光、   (ここで、ワンポーズ、永遠の一瞬に思われる、、、)
 合格しました」
「うわぁおおおお、おめでとうございますぅ!」

10月、11月はたったひとり、みんなと別メニューで過去問演習をし、ひとりだけ1時間以上遅く帰る日もたくさんあった。
小4から地道にコツコツ力を蓄えてきた。小6の夏に算数が伸びた。易しい問題でハイスコアを競うタイプではない。発展問題にもガリガリチャレンジして何とかするタイプだった。愛光の入試傾向に向いていますよぉ、とお母様にもちかけたのは、9月の懇談のこと。村上の提案は、ご家庭では想定外のことだった。結局、本人が福山で開かれた学校説明会を聴いてから、受験を決断した。その後の模擬試験の結果は芳しくなかった。しかし、過去問とは相性がよく演習結果は予想以上に好成績だった。しかし、精神的にムラがあって、全力発揮できる時とそうでない時の落差が激しいところがあった。気の乗らない試験は時にボコボコになることすらあった。
とにかくネガティブな発想を一切排除して、入試直前は「行けるぞ、行けるぞ」の一点張りだったように思う。結果は彼の気持ち次第と考えていた。だから、これと言って特別の対策はとらなかった。みんなと同じメニューで弱点補強を繰り返した。
松山へ出発する日の朝も普通に算数の演習をしたあと、
「いいかい、本番ではね、1000人を超える受験生と保護者と塾関係者が体育館に集う。それはそれはお祭りのような騒ぎだから、煽られるんじゃないよ。鉢巻きしめてたり、旗をふってたり、掛け声かけたり、みんないろいろやってるのを遠くから眺めて『何やってんだよ』って思っていればいいから」と言って送り出した。秘策もなにもなかった。

本番の感想は「算数で失敗した」だった。2日ほど自習時間に愛光の解けなかった算数の入試問題と格闘しつづけていた。気が済むまでやらせておこうと思ってほっておいた。そして頃合いを見計らって「もういい、次だ、この理科のプリントをやろう」と切りかえさせた。
発表前の見立ては正直言って半々だった。
やっぱり決め手は彼の合格したいという執念だったように思う。
「信じられなくて、こうして合格証を持つ手がふるえています」
というお母様のお言葉にこめられた万感の思いを深く受け止めたいと思う。
ちなみに、きょうは授業を休むのではないか、と思っていた本人は、20分ほどの遅刻でちゃんとあらわれた。へぇーやるなぁと思いつつ、
「合格おめでとう。合格証みたかい?」
「はい」
「信じられなかっただろ」と村上が尋ねると
ニヤッとして、
「いいえ」とこたえて、皆の笑いを誘った。
完璧に一本取られた村上であった。
どの生徒も村上の知らないところで確実に成長している。
ありがたいことである。