scene#1
授業前、パソコンに向かって管理業務をしていると、コンコンと01教室のドアをノックする音がした。ふりかえると、入試の日と同じ装いの少女Tさん。表情からはどちらともとれる。
「ほい、ご苦労さん、で?」
おもいっきりはにかみつつ、小さな声で、「附属、うかりました」
「よっしゃー!! おめでとう!!!」
お父様とお母様が、みぞれの降りそそぐ外でお待ちになっていらっしゃった。あわてて教室をでてご挨拶をさせていただいた。
何の心配もいらないお受験でしたが、と水をむけると、本人が、あれができなかった、これができなかった、というので、どんどん心配になって、と。うーむ、お気の毒に、さぞ、発表前は緊張されたことでしょう。
scene#2
授業前、電話が鳴る。どきどきしながら受話器をとると、弾むような少年G。
「附属受かりましたぁ!!」
「よっしゃー!! すっきりしたなぁ。よかった、よかった」
当然の結果だったけれど、やっぱり現実に確認できるまでは落ち着かないものであったろう。
scene#3
授業中、2通のメールで不合格を二件受け取って沈んでいたところへ、01教室のドアがノックされる。
少女Tさん登場、表情が明るい。
「附属受かりました」
思わず、持っていた教科書を放り出し、小5の生徒は無視して
「やったぁ、よくやったぁ!!!」「先生が最初ですよ、お母さんにもお兄ちゃんにも知らせてない」
ここまで、ちょっと苦戦していたけれど、これでOK。すべて報われた。入試の日の朝、「私は本番に弱いから」とか弱気なことを言っていた。
「で、どうだったの、本番は?」
「五分五分かな、いいのも悪いのもあった」
「そうかぁ、まぁ手ごたえはあったってことだ」
「はい」
まぁ、そういうもんだろう。
最終的に、9名受験した。
きょう合格を決めたのは3名。
繰り上げ待ちが1名。
ひとり、8時過ぎに電話で不合格の報告をくれた子がいた。その場は冷静に対処できて、励ますこともできたのに、数分後、無理数の問題を解説しているなんでもない瞬間に、その子の声がフラッシュバックして突然泣けてきた。
「すまねぇ、何年塾屋やってんだか、受験なんて毎年やってんのになぁ、ダメだ、涙がとまらねぇ、許せ」
授業が中断した。
今日は、大学入試でも高校入試(選抜Ⅰ)でも、つらい報告がいっぱいあって、村上がいろいろこらえていたものが、とうとう噴出したということだろう。
何があっても、クールに授業をするのがプロの塾屋のはずだが、きょうは失敗した。ジジイになると、感情のコントロールまで下手になる。
明日は、クールにやろう。
広大附属福山高校の合格発表があるけれど。