そして、次の日。

昨日、ふれるべき事柄が実はもうひとつあった。

市立福山高校  2名合格

 

市立はてっきり土曜日の発表と思い込んでいた。

だから、金曜日は附属中の発表のことしか念頭になかった。

村上も耄碌した。

市立受験の子が教室に来ていても、「自習か、熱心だなぁ」としか思っていなかった。

あとから来たもうひとり別の子が、02教室で「きょう授業はありますか」と聞く。

何をトンチンカンなことをこいつは聞くのだろう、とその瞬間思った。

村上が反応する前に、「市立合格したんですけど、、、」と、すらっと口にする。

「ヴえええぇ。なんで最初に言わないんだぁ。おめでとう。よかったなぁ。きょうが発表だったのかぁ。すまねぇ。すっかり勘違いしてた。待てよ!おい、M。おまえ、、、、」

村上と目が合って、やっと先に来ていた子もニコニコし始める。

隣の子が、小突いて「だから言えっていったのに」と笑っている。

「ぶぁあか。おまえ、そこで何やってたんだ。はい、おめでとう。そうかそうか。よくやった。いやぁ、まいった。えっ、授業?授業は来週から。きょうはお祝いしてもらえ。来週から月・木で、高校の英語・数学、7:00-9:00ね」

塾屋が間抜けだと、生徒が気の毒な目にあう、というLECによくあるお話。

しかし、彼女たち限定の問題がある。

高校の入学式の日にあきらかになるクラス編成だ。

それまでは、実はちょっと重苦しさが残る。

 

そして、きょう発表の広大附属福山高校

 

午後3:30に合格発表。

すっかり忘れていた。

小4の漢字クイズでもりあがり、4時から小6英語の発音練習を楽しくやっていると、合格発表前の緊張感が完璧に雲散霧消していた。

福山に来て23年、はじめてのことだ。

 

午後4時過ぎ

「受かりました」と附属受験の中3少女が、ニコニコしながら02教室に入室してきた。

一瞬間があいた。

「え?」

はにかみながら、彼女がくりかえす

「附属受かりました」

ここでやっと村上の状況認識が正常に動作した。

喜びと驚きが同時にやってきた。

「おおおおお、やったぁ、おめでとう!。えっ、もう3:30?ああ4時かぁ。おうおうおう。よっしゃぁ!!」

支離滅裂である。

言葉が言葉にならない。

馬鹿だね、55歳にもなって、きちんと感情を表現できない。

今、あらためて、言おう。

おめでとう。合格するべくして合格したね。余裕の合格だった。

 

それから時間が止まった。

 

あれぇ、どうしたんだ。

これだけか。

そんな馬鹿な。

まさか、そんなことはない。

悶々としつつ、小6の子らに正負の数の乗法を教える。

刻々と時間だけがすぎてゆく。

ああ、昨日と同じ感じだ。

 

そして、駐車場に車の止まる音。ドアの閉まる音。

二人目の附属受験の中3少女が02教室に登場。

いい顔、ひとめでわかる。

「受かりました」

なんか、もう、声がかすれている。

本当にいい顔。

涙腺がゆるむ。

「よっしゃぁ、おめでとう、よくやったぁ。出遅れてしんどかったなぁ」

おもいっきり褒めた。褒めまくった。

 

そして、4時30分過ぎ。

電話が鳴った。

附属受験生のお母様だった。

「番号がありませんでした」

ああ。

朗らかなお声が心に刺さる。

お詫びして、明日から公立の過去問演習に参加するようお願いして受話器を置いた。

なんということだ。

一気に沈んだ。

7割5分の確率で受かるはずだった。

またしてもしくじった。

申し訳ない。

生徒の心を想う。

ああ。

 

 

あとひとり。

 

気になってパソコンの受信ボックスを開ける。

 

中3のブランチに「着信あり」

 

信じたとおりになるのか。

 

クリック。

 

いきなり二行目、「合格」の二文字が飛び込んだ。

確かめた。

もういちど、確かめた。

まちがいない、信じた結果が目の前にあった。

お母様の喜びようが、画面に浮かぶ文字から伝わってくる。

 

少年は午後8時過ぎに挨拶に来てくれた。

握手した瞬間、二人して泣いた。

わかちあうことのできる喜びが私たちの心を満たした。

苦節3年分の喜びであった。

中学入試のリベンジが完了した。

高い目標に正々堂々、真っ向勝負をして見事打ち克ち、たくましく成長した少年がひとり誕生した。

 

来週からは、また新たなスタートを切る。

私たちには、これからやるべきことがたくさんある。

 

広大附属福山高校

3名合格