塾に着くと、高3生女子が駐輪場にいた。
彼女が入塾試験を受けに来た時のことを思い出す。
中2だった。駐輪場にとめた自転車に座って本を読みながら村上を待っていた。
ふつうそういう場合、所在なくドア付近にぼーっと立って待つ子が多い。
際立つ存在感が印象的で忘れられない。
目が合うと、にこやかに笑顔。
「おおお、OK? おおおお、やったぁ!」
岡山大学 医学部 合格!
入塾当初から岡山大学・医学部志望だった。
学力面ではほぼ順調にやってきた。
時に「やっちまいましたぁ」という時もなかったわけでもなかったけれど、大勢に影響するようなスランプは一度もなかった。
決めるべきときに、きちんと結果を出しつつ、まったくぶれることなくやりぬいた精神力はまさに十年にひとりの逸材、賞賛にあたいする。
「君には類まれな向上心とそれをあたたかく見守るご両親がいらっしゃる。これからも山あり谷ありいろいろあるだろうけれど、絶対大丈夫。アフリカだろうがアメリカだろが、どこに行っても大丈夫。どんどんやってください」
例によって、あいかわらず無責任だよなぁ、と思いつつ送る言葉にした。
その10分後。高3少年が登場。
愛媛大学 法学部 合格!
うおぉぉぉぉ! おめでとう!!
前期試験の直前、英語の答案添削をしながら、
「あのさぁ、今さらなんだけれど、この日本語なんとかならないの?」と、よせばいいのに、いちばん不安を抱えているときに、何の励みにもならない突っ込みをバシバシいれた。
樫の木のようにタフな彼だからこそ、できた指導だったかもしれない。
一本気でまじめな少年が、しかし、この3年間でじつにたくましい青年に成長したものだ。自立し旅立っていくその姿になんの不安もない。
どんどん何でもチャレンジしてくれ!
そして、小5の授業が始まり、逆算の説明をしていると。ドアをコンコン。
高3少女が登場。
広島大学 総合科学部 合格!
うおぉぉぉぉ! おめでとう!!
彼女とのおつきあいは7年になる。
本好きのちっこい女の子だった。いつの間にかすっごく背が伸びた。
作文が上手だったし、類まれな語学力をもっていた。
立命館大学と同志社大学にも受かっていた。
「どうするの?」と尋ねた。
同志社大学にする。自分の志望にいちばん近いから、ということだった。
それは、センター試験終了後に相談した時に浮かんでいた選択肢だった。
自然な選択に思われ、おおいに納得した。
「大学1.2年はオール優をめざせ、そして、単位互換のあるアメリカの大学に奨学金をとって留学しろ!」
と、受験の終わったばかりの子に無用なプレスをかけてしまった。
いや、たぶん、彼女の才能が全面開花するのはこれからにちがいないから。
小5の子らが02教室に移り、漢字テストを始めたころ、
高3少女が登場。くしゃくしゃの笑顔。
山口大学 国際総合科学部 合格!
うおぉぉぉぉ! おめでとう!!
もう半泣き状態、でも言葉はいらなかった。
気持ちは100%通じていた。
彼女の喜びは村上の喜びであり、村上の喜びは彼女の喜びであった。
2年間よく耐えた。打たれ強く、辛抱強くしぶとくよくがんばったと思う。
「先生、なきそうじゃぁ」と小5のチビたちがはやし立てる。
「うるせぇ、黙ってやれ」というしかなかった。
そして、小5のテストもおわりかけたころ、
高3男子登場。ニコニコ顔で、一発報告。
広島大学 工学部 合格!
うおぉぉぉぉ! おめでとう!!
立命と関学もOKだった。
センターで失敗した時は顔色まで悪くなっていた。いまはすっかりいい顔。
「しっかりやってくれ。大学院からステップアップするのもひとつの方法。いろんな選択肢がある。これからさ。ここからスタートだ」と言葉を送った。
きょう、報告に来てくれた君たち。
本当にありがとう。
思えば拙い指導だった。
精一杯だったが、改善の余地はたくさんある。おそらく教えた以上のものを僕はいただいたように思う。
きょうは大学受験の終わりの日であると同時に、君たちが本当に学問の世界へと進むスタートの日でもある。
まっとうな受験勉強をひたむきにやってきた君たちなら、新たな世界で新しい自分をきちんと見つけられるだろう。
より豊かなめぐりあい、より刺激的な出会いに満ちた日々になりますように。
再会の日を楽しみにまっています。
健闘を祈ります。