広陵の夢は満塁ホームランに消え、

 甲子園は終わった。たまたまネット中継で、九回表の広陵の攻撃をみることができた。林君が、二塁を蹴って三塁へ躊躇せずに向かう一瞬、「やる!」と思った。打者走者が、もう二歩手前で止まり、後ずさりして陽動をかけていたら、、、あの果敢な走塁は、甲子園の球史に残る伝説になっていただろう。結果はアウト。残念だった。
 ダグアウトに帰ってくる林君を、中井監督が拍手をしながら「ようやった」と迎えていた(ぼくのノートパソコンの14インチの小さなディスプレイに映る、ネット中継のこれまた小さなTV画像で読み取った印象なので思い込みかもしれないけれど)、「ああ、いい指導者だなぁ」と思った。結果を恐れずチャレンジして失敗した生徒をあたたかく迎える度量を、この決勝戦の九回表ツーアウトでみせられる人はそれほど多くはあるまい。尊敬するべき拍手であった。
 大丈夫、ショート・ストップの上本君(2年)が元気でいるかぎり、来年も広陵は甲子園にもどってくるだろう。そして、いつの日か、現在、早稲田大学で二塁を守っている兄とともに、広島カープの二遊間を兄弟二人で守り、鉄壁の守備を見せてくれる日がくることだろう。
 お疲れさんでした。広陵のみなさん。どうもありがとう。
 佐賀北のみなさん、全国の公立高校の野球部に君たちの快進撃がどれだけ励ましをあたえてくれたことか。無欲無心の強さ、平常心を失わず、野球を楽しむ姿勢が君たちの強さであったと思う。実にすがすがしいチームで、君たちが劇的な優勝をすることは、ベストエイトに進出したときにあらかじめ定められていた宿命であったようにさえ思った。帝京戦の翌日、帝京二遊間がみせたグラブトスのファインプレーを君たちが真似して遊んでいるのを「熱闘甲子園」で見たとき、野球の神様は君たちを祝福し、甲子園の女神は君たちの味方をするであろう、と確信した。
 ごく普通に当たり前の努力を重ねることの大切さを思う。ともすれば、エリート教育がもてはやされ、特別な環境で特別なトレーニングをすることで、他を圧倒する力を手に入れることがあたりまえになっている時代に、誰のためでもなく、自分たちが楽しむために努力し成長することの美しさを、佐賀北の選手たちは教えてくれたように思う。ドラマチック甲子園だった。ほんとうにありがとう。