いつだって、「これからだ!」

「先生、この子の偏差値では絶対無理ですよね」

と、模擬試験の結果を見ながら保護者が語る。

無理もない。合格圏までに10ポイントほどの差がある。もし、対象の生徒が、高校3年の国立大学志望の受験生で、センター試験まであと1か月ぐらいだったら、その問いかけに首肯せざるをえない。

しかし、対象の生徒が、小学5年生だったらどうだろう。

偏差値が有用性をもつには標本数が1万件以上必要だと聞いたことがある。中学入試の業者模試などたかだか1000人ほどしか受験していない。そんな模擬試験のデータを鵜呑みにするわけにはいかない。

また、人格がほぼ完成し、知力の成長もゆるやかなカーブを描く18歳頃の大学受験生と、まさに発展途上で、反抗期すらやっとはじまったばかり、きっかけひとつで大きな飛躍もできる11歳頃の中学受験生とでは、ここ一番の伸びが違う。

さらに、5教科7科目を要領よく勉強しなければならない大学受験生と、たった4教科でこと足りる中学受験生とでは、圧倒的に負担がちがう。いや、小学生の社会は、地理・歴史・公民と3分野もあるし、理科だって、生物・化学・地学・物理と4分野もある。だから4教科9科目だと屁理屈をいう小学生もいるかもしれないが、教科の幅と深さ、質と量が根本的に異なるからそれは却下。

要するに、小学生には大きな可能性がある。それは自明の理であって、疑いの余地がない。保護者がわが子に不安な気持ちをもつのは避けられない、期待をするのも当然だ。だから、何かしら客観性をおびているようにみえる数字にふりまわされないようにしないと、健全な親子関係に影が差す。思慮深くふるまう必要がある。

いやいや、そんな模擬試験をして不安を煽っている塾屋がそもそも元凶であるにもかかわらず、したり顔で偉そうなことを言うのはおかしいだろう、と、まぁ、ご批判の向きもあるかもしれない。うん、きっとあるよなぁ。

塾屋の弁明はさておき、とにかく、子ども(とくに小学生)が溌剌と頑張っていれば状況はいくらでも変えられる。そのためには、親が、自分の不安や心配から不必要な干渉をしないようにすることが欠かせない。

「勉強しなさい」「早くしなさい」は避けたい干渉の代表例だ。

言わずにすむ生活リズム、親子関係を構築することが育児の見せ所であろう。

あたりまえのことだが、子どもは親の不安や心配をどんどん作り出しても、解消してくれることはない。しかし、時に、子どもは思いもしないような感激や感動をプレゼントしてくれる。

鷹揚すぎるかもしれないけれど、いつだって「これから頑張れ!」でいいんじゃいないかしら。