「広島の小学生の事件、犯人がつかまりましたね」浪人生のK君

 確かに、容疑者は逮捕されたけれど、まだ、犯人と決まったわけじゃない。あの「ロス疑惑」の三浦和義さんだって、結局無罪になった。だから、日系ペルー人の彼を犯人あつかいするのはまだはやい。外国人犯罪の増加を告げるニュースが同じ日に流れてきたりすると、僕のように、根性の曲がった人間は、外国人排斥を企む輩の陰謀をうたがってしまう。

 僕の生まれ育った島には、「旅の人」という言葉がある。はっきり調べたわけではないけれど、「地元の人ではない」という意味で使う。つきあいが悪かったり、伝統的な因習に反する言動をとったりした時、「旅の人だから」と誰かが言えば、それで納得されてしまうような、実に排他的な言葉だ。

 社会不安が増大し、秩序に綻びが生じたとき、真っ先にスケープゴートにされるのは、社会的基盤の脆弱な異邦人である。共同体の内部にいる「自分たち」と外部にいる「彼ら」を鋭く峻別し、弾圧することで、共同体内の均質性を高め、社会的安定を復活させようとするのは、人間の業かも知れぬ。しかし、その社会が不健全な方向にすすんでしまうのは、歴史の証明するところだ。どんな社会であれ、多様性に寛容で、適度に開かれていかなければ、社会の発展はない。

 不幸な事件だった。ご家族のことを考えると言葉も出ない。早く解決されることを強く望む。と、同時に、公正な捜査、厳正な取り調べがおこなわれるべきであることも強調しておきたい。外国籍であるがゆえに、不当な捜査の対象になってよいわけはないし、不適切な取り調べが行われてよいわけでもない。一日も早い事件の解決を望む一方で、日本に住む外国籍の人たちに対して、予断と偏見を助長するような動きが出てこないように祈りたい。

 ということを、語りたかったのだけれど、飽和状態の02教室、小学生や中学生が勉強している横で、ぺらぺら喋るわけにもいかなかったのだよ、K君。ともあれ、明日は、時間通り来るのだよ。時間厳守は、受験生の基本だ。