やっと個人的な読書を再会しました。
 1冊目は、「朗読者」ベルンハルト シュリンク 新潮文庫
 かなり前、ベストセラーになった時、文庫になったら読もうと、思っていたドイツ文現代学の傑作。静謐で控えめな表現を折り重ねて、物語は少年と年上の女性との恋愛と、戦争犯罪を裁く精神のあり方を巡ってたんたんと物語られる。声高な批判も、激情を伴う拒絶も一切ない、言ってみれば、なにひとつ解決してはいない、解決不能に思われることがらを丸ごと受け入れる哀しみが、余韻に残って魂に刻印される。だから、主人公の生き方を肯定も否定もできない宙ぶらりんの状態になってしまうのだけれど、物語の結末に深く納得させられてしまう。普遍的な人間性のあり方に対する視座が、じつに健全で透徹していて、驚くほど共感できる。親近感すら覚えるほどに。
 恋愛小説であり、政治小説であり、良心の小説である、というべきか、いや、そうしたレッテル貼りを超えたところに屹立する、20世紀を代表する優れた小説というべきか。たぶん、再読するたびに考えさせられ、納得させられ、新しい課題を抱えることになる小説だろう。
 受験指導あけの、読書飢餓を十二分に満たしてくれる一冊でした。高校生以上にお薦めします。

朗読者 (新潮文庫)

朗読者 (新潮文庫)