「迷うくらいなら、やれよ!」

 と、僕に教えてくれたのは、大学時代のゼミの畏友、福田和志君。彼は修道高校出身で現役だったから、僕よりひとつ下だったけれど、僕にとってはいろいろな意味で、師匠のような人であった。
 あるとき、「どうしようかなぁ」とぼやいていると、「何迷ってんだよ、迷うくらいならやれよ。やってもやらなくっても後悔するのなら、やって後悔した方が納得がいくだろう」と、明快に諭してくれた。目の前にかかっていた霧がスパッと消えて、「OK、わかった、やってやる!」と心が決まった。
 それが一体なんだったのか、対象はすっかり忘れたのだけれど、そのときの、いぶし銀のような彼の渋い表情と、東武東上線常盤台にあった彼の安アパートの一室は記憶に残っている。
 あれからもずいぶん迷いながら生きてきた。でも、彼に教えられた「迷うくらいなら行動する」という行動原理は揺らぐことがない。優柔不断な僕が、何とか生き延びてこられたのも彼のおかげである。
 きょう、ふと、彼のことを思い出した。たぶん、僕はまた迷い、また、ひとつ決断を下し、また、ひとつ、一歩踏み出したのだろう。考えてみれば、確かに。