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「坂の上の雲」と日本人

「坂の上の雲」と日本人


 高校時代に愛読した「坂の上の雲」を、尊敬する作家が解題するとなれば、これは紐解かねばなるまい、と思って何気なく読み始めたら、期待にたがわず、「面白い」ことこの上ない。「坂の上の雲」を精緻に読み解く過程で、縦横無尽に、司馬遼太郎を論じ、夏目漱石を論じ、全共闘運動を論じ、ナショナリズムを論じ、日本社会と日本民族を解析していく手法は、丸谷才一もかくや、と思わせる達者な芸で、評論でありながらひとつの作品として文学的結晶をなすあたり、お見事のひとこと。できれば、ナショナリズムを論じたあたりで、丸山真男に触れて欲しかった。お二人が、相次いで鬼籍に入られた年の暮れのなんとわびしかったことか、いまだに思い出す。
 日本史を選択した高校生にって思うけれど、まず、「坂の上の雲」を読んでからになるから、ここでは薦めない。大学に入ってから読むといいと思う。日教組全盛時代(あの槙枝委員長の頃)に、日本史を学んだ僕が、どれほど「坂の上の雲」のおかげで救われたか、本当によくわかった。
 できれば、関川夏央さんに、司馬遼太郎こと福田定一氏を主要な登場人物にした極上の仮想戦記があることを教えて差し上げたい。「風の谷のナウシカ」を高く評価する氏であれば、必ずや、その作品の価値もまた、正しく認識していただけるであろう。