複写機は

 すでに耐用年数も、そのスペックも越えた武人の蛮用を強いられているため、動作し始めたとたん異音をなりひびかせている。演習用プリントをガンガン刷っているときのドラムの回転音が、なぜか「夏期講習の音」として僕の記憶にすりこまれる。
03教室では高3が英語の演習、02教室では高1の数Ⅰの演習+中3基礎の自習、01教室では高2の数Ⅱの授業、まるで陸海空にまたがる史上空前の作戦を実行しているような錯覚に陥る。
 複写機が止まり、プリントが配られ、しんと静まり返った室内に、子どもらのシャープペンシルを走らせる音、プリントをめくる音がする。エアコンの駆動音が通奏低音で緊迫感を演出している。
 佳境を迎えた講習会、ブラスバンドの華やかな演奏も、チアリーダーの躍動感あふれるバトンもないけれど、受験生が自分と向き合い、静かに思考をめぐらす世界は、僕にとっての甲子園、いやそれ以上のものだ。