「先生、明日、速達はいつごろくるでしょうか?」と少年は言った。

気持ちはたいへんよくわかる。よくわかるけれど、正確な時刻までは答えられない。
「早ければ午前中。遅くとも午後4時までには届くよ」
「そうかぁ、じゃぁ落ちてたら塾に来てガミガミ怒られて、、、」
「落ちた生徒をガミガミ怒ったことなんか一度もないぜ(苦笑)」
「へーえ」
「一緒に泣いたことはある。でも、おまえと一緒に泣くのは嫌だな(明るい笑い)」
「ふん、ふん、どうせそうですよぉ」
「落ちてたら、いっしょに菓子を食おう。お菓子なら一緒に食ってやる(大笑)」
「太りますよぉ(暗い笑)」
「ふん、お前の知ったことか!それ以上近寄って来るな!」

いつの頃からか、少年は根本的にまったく村上を恐れなくなり、傍若無人な口のきき方をするようになった。村上も塾屋にあるまじき遠慮のない罵詈雑言を叩きかえすようになった。じゃれつく子犬のように近寄る少年に、「それ以上近寄るな、あっちへ行け」と追い払うしぐさをしてみせても、「へへへへぇ」と寄ってくる。
塾を追い出された回数は数知れず、「うるさい、おまえの意見や感想は聞いていない」と1日に何回言われても、「ひどい? ふん、今頃気がついたか、残念だったな」と冷たくあしらわれても、5分もたてばケロッとして、「先生ぇ」と村上を呼ぶ。「今、俺に話しかけるな」と何度ガンをとばされても、「先生ぇ」と懲りない。
実に嬉しそうに「今に身長で追い抜いて、上から見下ろしてやる」と言う。そんな彼に明日待望の合格通知が来る。(はず)
ご両親にどれだけ感謝してもたりないことを彼なりに自覚し、きちんとお礼を述べてくれればありがたい。
そして、6年後の大学入試にむけて新しい一歩を踏み出してくれればもっとありがたい。
いずれにしても、彼にとって明日がハッピーな日でありますように。