「海の日」というより「なでしこ」の日

女子ワールドカップ決勝戦を、それほど熱い思い入れもなく、コパアメリカの準決勝でアルゼンチンがウルグアイに敗れた一戦を見たなりゆきで視聴することにした。ただ、NHK・BSの実況は、何か落ち着きのない騒々しさが耳障りだったので、消音ボタンを押した。

静かな画面上で、いきなりアメリカの猛攻が始まった。アメリカの選手が日本の選手を振り切り、押し倒し、跳ね飛ばしてゴールに迫る。「こりゃだめだ、前半でボコボコにされるぞ」と思っていたら、たいへん運の良いことにアメリカチームの放つシュートは、ことごとく、枠を越え、枠をはずれ、バーをたたき、得点にならない。

「運がいいなぁ、ひょっとするかなぁ」と思いつつ前半を終えた。後半開始早々、アメリカのメンバーチェンジ。「焦れてんなぁ」と感じた。試合はあいかわらずアメリカペース。中盤で球を奪われ、中央から、あるいはサイドから、ドリブルで持ち込まれる。ゴールへ向かう直線的な動きに、日本人選手が出遅れているような場面が続出。ラストパスの精度でも劣っている気がした。

日本の11番の選手がちょっと創造的なプレーで楽しませてくれる。右サイドで球を受け、切り替えして中央にドリブルで持ち込むことができる。絶妙なスルーパスもひとつ、ふたつ。でも、その動きとパスに周囲の日本人選手がうまくシンクロしていない。7番の選手との微妙な呼吸もあっていない。ヤキモキしつつも、「何とかなるかもね」という思いも湧きあがってきた。

どうするんだ、と思っていたら、選手交代。期待していた11番と7番のコンビが下がることになった。たぶん、これはいつも通りの戦術的交代で、攻撃力をアップするものなのだろう、と勝手に解釈。解説抜きなので、自分なりにストーリーを組み立てつつみるしかない。

日本が前がかりになり、中盤とDFの間がおおきく空く。すると、再三再四、シャープな動きでアメリカの攻撃を組み立てていたアメリカの15番の選手が、日本の攻撃ボールを奪うや否や、前線の13番の選手にアメリカエリアからロングパス。どんぴしゃりで足元。「やばいじゃん」と思った時には、追いすがる日本のDFを振り切って13番がシュート。見事にゴール。両手でガッツポーズ、絶叫。アメリカ先制。

この時点で負けを意識したけれど、「1点のリードで勝ちを確信する監督はいない」という漫画のセリフが記憶の底からよみがえる。まだ時間はある。日本の10番が周囲を勇気づける表情に厳しさはあっても暗さはない。まだ、なんとかなるか。

日本の右サイドの攻撃が活性化して、中盤からのボールのつなぎが改善されたと思ったら、チャンスが来た。「おっと来た」、と思ったのもつかの間、右からのクロスを受けたFWがゴール前で相手DFと交錯して倒れ、万事休す、と思った瞬間、画面左下から飛び込んできた日本の8番が、こぼれ球を、左足を目いっぱい伸ばして、そのアウトサイドでゴール左側にボールを流す。走りこんできたベクトルの延長線上に跳ぶゴールキーパーとは真逆の方向にボールが転がり、同点ゴール!この8番の渋いのは、派手なパフォーマンスを演じることもなく、片手でちょこっとガッツポーズするや否や、ゴール隅に転がるボールを拾って、すぐにリプレーの準備に入ったところ。全身から勝利への執念を発散する。「いいねぇ、闘志あふれるファイターやんか」

「勝てるかもしれない、追いついた側が有利だ」と初めて思った。しかし、アメリカは崩れない。アメリカの20番の選手が檄をとばして味方を鼓舞するシーンが熱い。「あああ、向こうも必死だ」と思う。「負けなければいい」という中途半端な発想はここにはない。ただ「勝つ」という獰猛な精神がピッチ上でぶつかりあっている。試合は同点のまま延長戦へ。

延長戦前半、日本の運動量が上回るだろう、と期待していたのに、そんなことはない。あいかわらずアメリカの出足は鋭い。むしろ、日本の方が加速力で劣っている分だけ、運動エネルギーの総量では負けているように映った。日本の右サイドがえぐられる。アメリカのスローインから簡単にアメリカの13番がボールを足元に引き寄せる。「うわっ、グッとくるぞぉ」と思った瞬間、体の向きを変え、日本のDFを振り切り速い弾道のクロス。どんぴしゃりのゴール前にアメリカのエース、20番。一歩も動かずに、あざやかなヘディングシュート。キーパーが反応する暇もなく、ボールがネットに突き刺さる。雄たけびをあげ、ガッツポーズ。絵になる。

「ここまで来てこれかい、もっとも警戒していた20番にクリーンに決められて、もうダメだ」と思いつつ、延長戦後半へ。日本の左サイドからいいクロスもあがるけれど、あとひとつ精度にかける。流れからの得点は、アメリカの組織的守備の前には難しい。3バックが実によく機能している。とにかく寄せが速い、体がごつい、しつこい。「セットプレーしかないなぁ」と思っていたら、日本CK。

アメリカは全員守備。ゴール前は団子状態。身長差を考えるととても枠内にボールが跳ぶとは思えない。蹴った。「うん、ニア? あれ、入った? 入った、入った! 同点だぁ、すげぇー」 日本の10番がどう蹴りこんだのか、今も分からない。TVカメラの角度からすると、右足の裏で右後方へ流し込んだように映っていたけれど、そんな芸当ができるのかしら。いまだに謎。

ここまで来たらもう神がかり。なんでもありで、勝ち運を感じる。最後のアメリカのFKも絶体絶命のピンチだったのに、何か安心してみていた。むしろ、それまで振り切られ、転がされ、翻弄されることの多かった日本のDFが、果敢なスライディングタックルでアメリカの13番をとめた心意気に感動していた。一発退場も納得できる、いや、日本チームとしてはファイン・プレーと言ってよい。そしてPK戦。作戦を練る監督やスタッフの表情が明るい。PKまできたことで、晴れ晴れしているようだ。

アメリカの1番目、名前はボックス、Xが二つなのね、ふーん、と思っていたら、日本のキーパーがとめた。やったね。日本の1番目。キーパーの動きを読み切って逆サイドへ。相変わらず渋い8番。アメリカの二人目、ボールは枠の上。勝つじゃん、勝つじゃん。このへんからよく覚えていない、超ドキドキ状態になった。日本の二人目、とめられてしまう。あーあ。アメリカの3人目、また、日本のキーパーがとめた。キタァ。と興奮状態。日本の3人目、アメリカのキーパーの手の下をくぐってゴール右隅へ。いける、いける、2-0だぁ。アメリカの4人目、この人外したら優勝かい?よくわかんないまま、みていたら、さすがに20番、ズドーンときた。あいかわらずエネルギッシュに吼える。でもぉ、ここで決めたら、3-1で終わり、日本の勝利。さぁ行け、と思ったら、アメリカのキーパーがなかなかセットしない。ふーん、それは作戦かい。と思ったけれど、日本の選手が冷静な表情をしていたので、よしよし。そして、蹴った、ネットに突き刺さった、ゴール!優勝!!!!!!!!!!!!

来年から、なでしこジャパンのワールドカップ優勝を祝して、7月18日は「なでしこの日」になり、国民の休日となります(笑)。


興奮がさめないので、意味もなく観戦記を書きました。
きょうはいつも通り授業があります。というお知らせを書くつもりだったのにすみません。
記憶に頼って書いた観戦記なので、細部に、思い間違いや、勘違いがあるかもしれません。事実に反することがあればあらかじめお詫びしておきます。また、音声の消えた画面で観戦していたので、試合の印象はすべて村上の主観によるものです。異論のある方もおられるかもしれませんが、人それぞれ、ということでお許しください。