朝から頭痛・悪寒・嘔吐感

 朝食後、絶不調で、鬱々として新聞も読めない。家人の分析によれば、3:30の合格発表を前にしたストレスが原因だという。否定する気力もなく、ナロンを飲むけれど、効かない。気がつけば「ハァー」。
「ルール違反でしょ。こっちが懸命にこらえているのに、その隣りで無神経にタメ息つくなんて」
まったく同意して、床に転がる。流れていたサラ・ブライトマンのベスト・アルバムを家人が消す。
「沈没はいやだ、こういうときはこっちでしょ」
タイタニックのテーマ曲を消して、娘のお気に入り「ローマの松」をかけなおす。
「この出だしって、「リボンの騎士」に似てるよね、チンクがこうラッパを吹いてるところ」
力なく同意。なんかよく似てる。けれど、確証はない。無敵のサファイア姫、両性具有?いや、違う、男装の麗人?そうでもない。あれは何を象徴していたんだろぅ、とぼんやり考えていたら、
「9:30よ、いいの?」
 促され、起き上がってのろのろとジャケットを着る。右目奥に突き刺すような痛み、喉全体が燃え上がっている。まるで敗残兵。クライマックスを迎える日、とは、とても思えない。晴れ晴れとして明鏡止水、いっぺんのくもりもなく厳かに一日が始まるはずだったのに、最低最悪の気分で、何も考えられない。

 塾についた、ごそごそとゴミを出し、モップをかけた。
とにかく、ここは、心意気、午前中にやるべきことは山ほどある。そいつを片づければ気分も晴れるかも。現在時刻は10:28.

午前、塾にて 

気分も体調も回復傾向。頭痛は忘れられる程度に軽減した。尾篭な話だけれど、トイレに五回行った。毎回、ヤクルト一本分程度しか出ないのだけれど、頭の中にある黒いしこりが融けて出て行くさまをイメージし続けていたら、だんだん気分がよくなってきた。背中と腰に貼ったカイロも効いているのかもしれない。闘える、もう、大丈夫、やってやる! 現在時刻は11:24.

午後、附属より帰着。3:36

帰りの渋滞を懸念してTIGER Ⅰのマウンテンバイクを借りた。
ふつうに漕いで7分くらいで到着。楽勝!掲示板の前にすでに家人と娘。元保護者のTさんもごいっしょ。ご挨拶してぼーっとしていると、ボタッと異音。足元をみると、「貼るカイロ」。僕のジャケットに隠れたシャツの背中からはがれておちてきた。それを見た家人が「あっ、落ちた!」。合格掲示板の前で言ってはならない禁句。居合わせた方々、カイロを落とした私の責任です。ご寛恕ください。

時計をみながら待つ。次第に人が増えてくる。
玄関前に駐車中のワンボックスカーに、段ボール箱が積まれる。中身は緑の封筒。たぶん、合格通知書。宝の山が、郵便局へ運ばれていく、、、、

時間になった。
係りの人がボードをもって現れる。
ちがう、諸注意の掲示。
ふっと目をそらすと、
対面の掲示板にはすでに番号。左が男子、右が女子。
「あっちへ行く」と言い置いてダッシュ。

女子を上から見る。
あっと思った瞬間、
「あった」といつのまに来たのか、横に娘。

男子を上から見る。
ない。
ひとつ後の番号はあるのに、
その前がない。
「..............」

結果 ○1●2


「99%大丈夫です」と笑顔で語ったL・Pの声が
耳の奥でこだまする。

「俺なりに精一杯やりました」B・Kのメールが脳裏をかすめる。

早々に退散し、坂を下る。
全身に緊張の緩んでいく気だるさ。
風は穏やかで、コートもいらない。
首にまいたマフラーすらとりたくなる。

「どうもなぁ、親として安堵している部分と
塾屋として、敗北をかみ締めている部分と
混在して乱反射、収拾がつかない。」

思い乱れながら、182号線をわたり、
塾をめざす。

「いや、感情そのものに実感がない。
完結したという気がしない。」

「無理もないか、
明日は広大附属福山中学の発表なんだから。」