因島市が尾道市に吸収合併された。

 行政上の制度変更に過ぎない、と言ってしまえばそれまでのことで、因島という土地、その風土、人々が何も変わるわけではない。「国家が滅ぶわけじゃないし、民族が分断されるわけでもない、俺には関係ない」といい続けてきた。
 今朝、家人にすすめられて、昨夜録画された、因島出身のバンド「ポルノグラフィティ」が昨年11月に、因島の小・中・高生を「因島市民会館」に招待して開いた二日間のコンサートビデオを見た。合併してうらびれていく感じのする因島市の子どもたちに「因島っていいとこなんだぜ」って伝えたるために企画を練るところから始まった。

 見ながら、ポロポロ涙がこぼれてしまった。「ポルノグラフィティ」というバンドがいるのは知っていた。紅白で観た事もあった。でも、興味と関心の埒外にあった。じっくり歌を聴くのも、話を聞くのも初めてだったといってよいのに、彼らの言いたいことや、思いが、すっと何の抵抗もなく、僕の心のやわらかいところに届いて、甘ったるい感傷を揺り動かした。
 彼らにとっても僕にとっても母校である因島高校を彼らが訪れる。渡り廊下から1年生の教室を見下ろしながら、思い出話が始まる。その1年3組の教室は、僕が「高校の空気は僕を自由にしてくれる」と感じた場所だ。ギタリストの彼が、2年生の教室で、「よく寝た」と言って指し示した場所は、隣りの教室だったけれど、まさに僕も「よく寝た」場所だった。
 彼らが、体育館への土手際の道を歩きながら「『体育だぜ、だりいなぁ』って言ってた」と語る場所も同じ科白をはきながら、僕もかつて歩いていた。体育館のステージに立って、文化祭や新入生歓迎会の思い出を語る場所は、僕も何回か立って、喋ったり歌ったりした場所だ。体育館の床のワックスのにおいや、汗臭かったマットの感触が、圧倒的に蘇る。
 そして、コンサート。
 彼らが、子どもたちに語りかける。「因島はすばらしいところだ」「夢の途中にいるんだ、夢にむかって生きていけ」「君ら最高!胸を張って生きていけ!」ぼくの中の18歳の僕が、無意識に共鳴し、波動を起こし、ふだんなら忌み嫌うはずの画面の中の集団的熱狂に、シンクロしていくのがわかる。大人になりきれない少年の僕が、彼らに励まされ、勇気づけられていく。
 もし、あのライヴの場に18歳の僕がいたら、15歳の僕がいたら、12歳の僕がいたら、、、、とめどなく、さまざまな想念が湧き上がり、ひとつの確信にいたる。
 そう、「子どもらに夢をあたえよう」と、大人なら誰だって言うだろう。しかし、それがどれほど困難なことか、本当に知っている人は少ない。その言葉自体が子どもらにとって「暴力」にすらなりかねない社会に僕たちが住んでいることにまったく無自覚でいながら、無節操に夢を語る教育者がどれほど多いことか。
 しかし、「ポルノグラフィティ」の彼らは、見事にやってのけた。鮮やかなパフォーマンスで、明確なメッセージをきちんと伝えきっていた。「夢をもて、自信をもって生きていけ!」と。それが島に生まれ育ったことへのの劣等感の裏返しであろうとなかろうと、郷土への誇りであろうとなかろうと、熱く生きる個人から、これから人生の階段を登ろうとする個人へストレートに走るメッセージに確かになっていた。
 因島につらなるものとして、また、日々子どもらに接することを生業とするものとして感謝したい。
 ありがとう「ポルノグラフィティ」。
 いまだに大人になりきれない大人の僕も勇気をもらったよ。