1.

スティーブ・ジョブズの再臨―世界を求めた男の失脚、挫折、そして復活

スティーブ・ジョブズの再臨―世界を求めた男の失脚、挫折、そして復活

  • 作者: アランデウッチマン,Alan Deutschman,大谷和利
  • 出版社/メーカー: 毎日コミュニケーションズ
  • 発売日: 2001/02
  • メディア: 単行本
  • 購入: 3人 クリック: 18回
  • この商品を含むブログ (22件) を見る

 マッキントッッシュの発明で、若くしてIT業界のヒーローになりながら、創立したアップル社を追われ、さらに、新しい試みに大失敗しながら、「トイストーリー」とピクサーの成功で、劇的に復活、再びアップル社にCEOとして迎え入れられるまでの苦闘の日々を、醒めた筆致でクールに描き出した物語。スティーブ・ジョブズが人間的にかなり偏った人物だってことを初めて知った。日本的なイメージでは、技術者=職人=無口で頑固 程度の変人奇人レベルだけれど、彼は違う。エンジニアというよりディレクター。悪魔的な魅力で人をひきつけながら、自己の美意識、完全主義を他者にストレートにぶつけて翻弄するエゴイストの側面もあって、なかなかきわどい人格のよう。ホンダをつくった本田宗一郎氏に近い感じを受けた。この物語の延長線上にiPodの開発が加わると思うと、スティーブ・ジョブズのバイタリティの凄さにおののいてしまう。

2.

清宮克幸・春口廣対論 指導力 (光文社新書)

清宮克幸・春口廣対論 指導力 (光文社新書)


3.
「荒ぶる」復活

「荒ぶる」復活


 依然として、早稲田ラグビー中興の祖、清宮克幸氏のおっかけ読書。「指導力」では、むしろ、関東学院大学ラグビー部監督の春口廣氏の魅力がまさっていた、「監督」としてよりも「先生」として、大学生に接する春口氏のペーソス溢れる発言が、じんじん胸に響く。早稲田のように、優秀な学生が自然にあつまるわけじゃない、環境がととのっているわけじゃない、就職が保証されているわけじゃない、の ないないづくしの次元で、ラグビーが好きだ、という情熱が燃え上がる。素晴らしい人だ。「『荒ぶる』復活」は、大西鉄之祐氏のノートの解説に唸った。僕が1年生のとき、先輩にすすめられて、氏の「現代スポーツ論」の講義をとったのは、いまをさること28年前。なんか変なおっさんだとしか思わなかったし、答案の最後に「早稲田万歳!」を書いておけば、簡単に「優」がとれる、という風聞もあって、まじめに聴いた記憶がないのが、今となっては、残念至極。日本ラグビー界の重鎮と教えられても、なんだ「ラグビー馬鹿」じゃん、と片付けてしまうほど、無知・無教養・驕慢だった。嗚呼。
4.
パーク・ライフ (文春文庫)

パーク・ライフ (文春文庫)


2002年の芥川賞受賞作。芥川賞の受賞作を読むのは、多和田葉子の「犬婿入り」以来のこと。
犬婿入り (講談社文庫)

犬婿入り (講談社文庫)

きっかけは、実にしまらない。神辺のフジグラン2Fのヴィレッジバンガードで、時間つぶしをしていたときに、装丁が目に留まってしまった。数年前に読んだ「犬婿入り」は、安部公房を思わせるような展開がスリリングで、芥川賞ってやるなぁ、と意味もなく思ってしまった。基本的に権威のあるものに反発する傾向が強い性格なのだけれど、あれはよかった。でも、この「パークライフ」はなんなんだろう。はっきり言って、つまらない。人体模型にどんな隠喩があったのか、深夜の散歩の途中で、落ちた洗濯物をたたんでしまうことに何の意味があるのか、「身代わりの旅行者」が何を意味するのか、ぜーんぜんわからん。感情移入する対象が見事にゼロ。「返せ、¥390」とは叫ばないけれど、こんなんでええの?と、釈然としない。
5.
人生における成功者の定義と条件

人生における成功者の定義と条件


 ということで、上の本のリザーブとして買っていたのだけれど、こちらはあたり。めちゃめちゃ面白かった。くだらんフィクションより、敬愛する方々の対談の方が圧倒的にためになる。村上龍氏は、「きらいなことはするな、好きなことをせよ。充実した生活を営むには努力を惜しむな、誠実に生きろ」と、一生懸命、日本の若者たちを励ましているように思った。結局、対談相手の方々は、その生きた見本として招かれているにすぎない。だから、中田英寿君相手になってしまうと、もう、自分の言いたいことしか言っていない。ひとりだけ、自分の宣伝をしつこく語るオバサンの話が鼻についたけれど、あと4氏との対談は、ぜひ、高校生に読んでもらいたいと思った。
6.
59番目のプロポーズ キャリアとオタクの恋

59番目のプロポーズ キャリアとオタクの恋


 長らく本棚の隅で埃をかぶっていた本。オタクの青年と国立大学(たぶん京大)出のキャリア女性が、奏でる恋愛ラプソディー。ドラゴンボールから機動戦士ガンダムまで、漫画・アニメ・ゲーム系の薀蓄をちりばめながら、女の子の日記形式(もとはブログ)で、話が進む。構成はいたって簡単で、トラウマを抱えた二人が、劣等感や虚栄心を捨てて、真実の愛にたどり着くまでのラテン的情熱の行程を描いている。どうもノン・フィクションには思えない。「59」と呼ばれる青年の人物像が、柔術を語り始めたとたんに、青春スポ根路線にはまっていて、説得力が極端に落ちてしまう。まるで、上の本で、村上龍氏がかくあれかし、と語ったそのもののようなモノローグが嘘っぽい。ということで、「電車男」同様、ノン・フィクションだと思うと、だまされる。あまり上品とは言いがたいところがたくさんあるので、子どもは読んじゃだめ。
7.
イエス

イエス


ジャンヌ

ジャンヌ


 こちらも、連休前は塾の本棚で埃をかぶっていた。暇な中学生に貸し出しもしていた。「イエス」は、無理のない歴史コミックで、時代背景が丁寧に描かれている。そのぶんだけ、宗教者としてのイエスの人物像に踏み込みきれないもどかしさがあったように思う。「ジャンヌ」は、歴史スペクタクルの傑作になりそこねた力作、というべきか。どうにもこうにも「フランスのため」という思考停止用語がでてくると、問題がすべて棚上げされてしまっている。結局、20世紀的なヒューマニズムを持ち込むから行き詰まるのだろう。