ブラジル戦 その後

 起きた、見た、一瞬、クロアチア対オーストラリアが1:0、日本対ブラジルが1:0、という信じられない瞬間を味わった。ああ僕は奇跡を目にするのか、いや、そんな、まさか、と思っていたら、電信柱のような太っちょロナウドが、ダイレクトヘッドのクロスに、まるでテルテル坊主が揺れるように反応して、同点になってしまった、嗚呼、ここまでかぁ、一度膨らんだ期待は、あえなくアワとはじけて消えた。
 試合終了後、中田英寿がピッチに横たわり、顔を隠して動こうともしない。NHKの解説者(木村某氏)が「早く気持ちをきりかえなきゃいけませんね」と、おっしゃっていたが、まったく見当違いだ。一瞬、カメラが捕らえた中田英寿の目が、あの強く人を射るような鋭い眼光を消し、まるで幼い少年が途方にくれて、母をさがすような切ない目だったことを僕は忘れない。真剣に、夢を追い求めて、全力で闘った男が、夢破れ、敗者としての自分を受け入れなければならないとき、立ち上がる気力も体力も失って、何が悪い。静かに見守り、静かに讃え、静かに記憶していくことこそ、彼の闘いに報いる姿勢ではないか。
 ありがとう、ヒデ。君こそ漢だ。