塾屋の日常点描

模擬試験の成績表作成。
 答案用紙にざっと目を通したあと、出題分野ごとの得点を一覧表に全科目記入していく。
本来、こうした瑣末な事務作業は、誰か他の人にやってもらったほうがよい場合もある。地味な仕事の割に精神的消耗度が高い。しかし、生徒の答案一枚一枚に目を通していると、無意識のうちに詳細な学力情報が蓄積されて、次の一手を考える局面で誤りのすくない判断を生み出す原動力になる。 
 好き勝手に生徒を教えて自己満足するだけなら誰でもできる。客観的な結果を受けいれ、さらに工夫した取り組みを練ることは容易ではない。みずからの無能を棚上げし、生徒の努力不足をなじる気持ちもしょっちゅう湧いてくるけれど、努力するきっかけや方法を教えずに、一方的に断罪しても益は少ない、事態を悪化させることはあっても、改善することにはならない。
 一過性の励ましで、免罪されるわけでもない。達成するべき目標が、達成できなかったときには、やり方に何か欠落したものがあったわけで、真摯な考察がなければ、同じ過ちをくりかえすだけであろう。沈着冷静に、できたこととできなかったことを認識し、できるはずなのにできなかったことを正しく見抜き、その処方箋を考えなければならない。
 と、言いつつ、実際には「コノヤロー」とかなんとか独り言をブツブツいいながら、点数を嘆いているだけのこともある。いずれにせよ、途方もなく心的エネルギーを消耗するのは確か。体温や血圧の測定値を記入するように、生徒のテストの得点を記入できるようになれば、僕はもっと凄い塾屋になれる。あと10年ぐらいかかりそうだ。