生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書)


 この本も今年の夏、東京で電車に乗って移動中に読んだ。あんまりおもしろくって、秋葉原で駅を乗り過ごしかけた。最も印象に残っているのは最終章、筆者の少年時代のエピソード。美しく哀しい挿話が、この科学者の心の根っこにあることを身震いするほどの感動をもって読んだ。頭がよいから人は科学者になるのではなくて、自然の神秘に激しく強く惹かれる感受性の豊かな人が第一級の科学者になることがよくわかる。
 「二重らせん」をめぐる功績争い、野口英世の評価、分子生物学のショート・ヒストリーに登場するあまりにも人間くさい科学者列伝が、どれもこれも興味深かった。日本の大学の因襲に固まった研究室を忌避し、アメリカの研究所で自分の才能に賭けて闘う姿は、今では武士の伝統を鼓吹して保守主義のシンボル的存在になった数学者、藤原正彦氏の自伝「若き数学者のアメリカ」を思いださせた。
 僕と同世代の優秀な科学者がどんどん世にでてきている。なんだかわけもなく嬉しい。勝手に励まされた気分。