年寄りの冷や水

 「鬼ごっこしませんか?」と昼休憩に少年が誘う。「俺から逃げ切れると思うの?」と言うと、「はい!」と不敵な笑み。ここは一発教育してやる必要がある、と思ったのが運の月。
 少年らを追って教室から走り出た一分後、全力疾走しているつもりなのに、脚が止まる。体が宙に浮く。「あれ?」と思ったけれど、硬直した前傾姿勢のまま、アスファルトに激突し、目から火が出る、あごと両腕に激痛が走る。よろよろ起き上がってみると擦過傷で血だらけ、携帯電話は傷だらけ、マスコットの「紅の豚」もちぎれている。見物していた他の小中学生は大爆笑、笑い転げている。
 まったくなさけない。もう小学6年生の脚力にも及ばない。全力疾走も1分もたない。傲慢極まりない塾屋の思い上がりに、神が正義の鉄槌をくだされたのか。嗚呼、くやしい。