朝9:30、突然の電話

そのとき、村上は01教室で税理士氏と確定申告について話していた。朝早くまだふたつめの電源を入れていなかったので、02教室の子機は使用できない。03教室の親機までとたとた急ぐことになった。「こんな朝早く、どうせ間違い電話じゃないのぉ」と思いつつ。
ところが、意外な展開が待っていた。
「もしもし」聞き覚えのある少年の声、(誰だ?)「大阪大学受かってました!」頭の中で声と顔と名前が瞬間的に一致し、同時に「うぉおおぉぉぉおおお、おめでとう!!!!!!!」と絶叫していた。
3年前高校受験時は、村上の力不足で彼の力をじゅうぶんに引き出すことができなかった。涙をのんで誠之館へ進学した。高校入学後、予想通り頭角を現しトップクラスになった、常時十番以内にはいたと思う。以前、模擬試験で国語が全国5位になったことはブログに書いた。とちゅうスランプもあったらしいけれど、印象としては白い歯をみせてにこやかに笑う表情しか思い出せない。
そんな彼も昨年二学期末には苦しい選択を迫られた。京大・法から、阪大・法にシフトチェンジしなければならなかった。数学の伸び悩みが原因だった。
ところが、万全を期したセンター試験が不発。緊張で地力を発揮できず、センターリサーチは軒並みE判定。いっそう辛い状況に追い込まれた。絶体絶命の窮地、並の人間なら自暴自棄になってさらに志望校を変更するか、私立勝負に変心するところであったろう。学校側からは志望校を下げるよう、かなり強力な働きかけがあったようだ。
しかし、S君は茫洋として大人の風を崩さず、動じることなく既定路線を歩んだ。そもそも阪大よりレベルを下げる気はさらさらなく、国立志望は絶対不変だった。まったりとして寛容な性格そのままに、阪大受験に臨んだ。そして奇跡の大逆転劇を見事に演じてくれた。
夕方、直接、2次試験の詳細を聞いた。
苦手の数学がやや難化したことで、かえって差をつけられずにすんだ、休憩時間、他の受験生が勉強しているときに、廊下で誠之館の友人とゲラゲラ笑っていたのでかなりリラックスできた。英語の長文は、速報を見る限り記号をひとつ落としただけであったし、英作文はほぼ完璧だったので、たぶん英語はトータル9割いった、国語は古文がZ会のテキストでみたことのある文章だったのでパーフェクトだった、等々、うまくいくときはすべてがうまくいくものですね、と、ニコニコしながら語ってくれた。
LEC歴は中学校1年から6年間。突然の自由を手に入れて、なんだか戸惑っている様子が初々しい。いつもぽわーんとした雰囲気で和みムードを提供してくれたムードメーカーは、他に見当たらない独特のキャラクタだった。ヨーヨーの名手、見たことはないけれど、ゲームセンターで太鼓を叩かせれば圧倒的な才能を見せると聞いた。
S君、おめでとう。長い間、どうもありがとう。