少年はうつむき加減でそーっと入室した。
ふだんと変わらぬ静かな佇まいだった。
それから5時間、誠之館対策を黙々と受講し、ぶっちぎりの成績をとりつづけた。
最後の批評も「大丈夫、上位合格できるでしょう」というものだった。
「油断するな、風邪をひくな」と念を押して、村上は教室を出た。
すっと彼が追いかけてくる。
「ん?」言葉をかける必要を感じた。どう慰めようか、一瞬言葉を探した。
彼がぼそっと「附属、受かってました」と予想した発言と真逆のことを言う。
「ええええ!なんで来た時に言わないんだ。馬鹿野郎!てっきり落ちたとおもって、どう言葉をかけようか、ずっと考えたじゃないか。なんで誠之館対策をおとなしくやってたんだ。」
「ええ、まあ」心根の優しい少年だから、周りの生徒に気兼ねしたのだろう。
「おめでとう。よくやった。リベンジしたなぁ。3年間よくがんばったなぁ。でも、あっという間だったな」
「はい、はやかったです、、、、」
3年前、悔し涙にくれた。中学入試で受かっておかしくなかった。運命のいたずらに翻弄され、試練をあたえられた。その日から彼と村上はリベンジを誓い、彼は3年間ブレることなくやり遂げた。あっぱれ。ここ1か月、孤独に黙々と過去問演習を重ね、毎回合格圏内にいることを証明しつづけていた。暗転したのは、本番で得意の数学が不発で、手ごたえを得られなかったことだ。それを聞いて内心びくびくしていたが、結果が出るまでは悲観的な予想は慎もうと考えて、一切話題にしなかった。
今年はチームを組むことができず、団体戦で臨めなかった。さぞ、辛かったろうと思う。しかし、不平一つ、泣き言一つ言わず、黙々となすべきことをやり抜いた彼を、村上は尊敬する。見事の一語に尽きる。凛として潔く、自らの人生を自らの力で切り拓いた生徒をもつことができて塾屋冥利につきる。
この先、彼にはさらに大きな試練がやってくるだろう。しかし、彼は、それを乗り越えることでもっと大きく成長するだろう。ボンボヤージュ!良き航海を!
LECは君とともにある。