生徒から本のリクエスト

「先生、本が読みたいんです」
と、ある中学生、折り紙つきの真面目少年(と、村上は勝手に思っているけれど、本人はどう思っているか知らない)から、休憩時間に言われた。含羞をふくんだまなざしをまっすぐに村上に向けて、まっすぐに言った。

これが、ちょっと頭のキレる同級生の女の子なら、
「先生さぁ、なんか面白そうな本ないっすかぁ。できれば文体がこじゃれてて、途中で投げ出さずに済むような、ぐいぐいハートを鷲掴みにするような緊迫した展開で、でも、最後にホロっとくるようなイケテルやつ。紹介、お願いしまーす」
とか、言いかねない。

彼は朴訥に続けた。
「学校の図書館でうろうろしながら手にとったものを読んでいるんですけれど、、、」


いやぁ、嬉しかったなぁ。なんか絶滅危惧種の珍獣(ごめんね)に出くわしたような気分だった。だいたい村上が塾で出会うのは次の三つのタイプだから、、、
(1) 子どもに本を読ませたいと思っている親。うまくいっていない。
(2) 学校の教師や親から本を読めってしょっちゅう強制されて、仕方なく読もうかなぁ、という気持ちになっている子ども。ホントはゲーム好き。
(3) 読書感想文や課題があってどうしても本を読まなければならない生徒。できれば、感想文そのものをかわりに書いてください、と思っている。

で、とっさに読ませたい本を思いつかなかったので(これも実は珍しい。リクエストされたら反射的に、ああ君にはこれが向いているよ、とスパッと一冊手渡すことが多いのだが、今回は、なぜかドギマギした)、書棚から何冊か手にとり、入れ替え、差し替え、3冊選んだ。

「この3冊は初級・中級・上級と考えてちょうだい。初級のこの本はすぐに読める。上級のこの本はたぶん時間がかかるだろう。人生に残る余韻もレベルがあがるにつれて大きくなるはずだ」
「ありがとうございます」
彼はにこやかにほほ笑んで受け取った。


参考資料

■初級:「時をかける少女」
時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)
みんな知ってるジュブナイルの名作
■中級:「青葉繁れる」
青葉繁れる (文春文庫)
高校生の青春を描いて抱腹絶倒
■上級:「若き数学者のアメリカ」
若き数学者のアメリカ (新潮文庫)
ベストセラー「国家の品格」の著者デビュー作 ユーモアと志を描く

(三つのグレードは村上が紹介するうえで便宜的につけたもので、本の価値を示すものではありません。村上にとってはどの本も傑作で、15歳の少年にぜひ読ませたいものばかりです。念のため)