みんな、がんばれ! 午前8時45分

 「先生、テレパシー送ってね」と、あの子は言った。
 「あぁ、送ってやる」と、僕は答えた。
 毎年の会話、毎年の儀式。
 「はい、合格鉛筆!」と、僕が塾のネーム入り鉛筆を渡す。
 「やったぁ!」と、喜ぶ小学生。
 「ありがとうごとうございます」と、はにかむ中・高生。
 彼らが、今、試験会場でどんな思いでいるのか、
 ひとりひとりの顔が、フラッシュバックする。

 いつものように貧乏ゆすりをしている子がいるだろう。
 わけもなくニコニコしながら待っている子もいるだろう。
 ぐっと唇をかんで試験監督をにらみつけている子もいるだろう。
 あいつは、ちゃんとトイレに行っただろうか。
 風邪気味だったあいつは大丈夫なのか。

 みんな、がんばれ。
 いつもどおり、ふだんどおりやってくれ。
 きっといいことがある。
 いつもどおり、ふだんどおりできなくても、
 いつかきっといいことがある。
 だって、ここまで頑張ってきたのだから。

 さっ 僕は塾で授業をしよう。
 いつもどおり、ふだんどおり。