なんだかんだといいながら

 「受験生の親」をやってきました。
 行きは、サラ・ブライトマンの"Time to say good-bye"をかけながら、のんびり巡航速度。穏やかな天気にもめぐまれてドライブ気分。あらかじめ、学校まで行ってルートを下見しておいた。市内は狭い道、横から出てくる車のタイミングの取り方が福山よりもルーズ。おおらかというか、いい加減というか。「田舎じゃん」とぶつくさ。学校に着くと、どこぞの塾の団体さんが旗をもってうろうろ。「ホウホウ、ごくろうさん」と思いつつ、足早に退去。
 ホテルのフロントに入ると、いっそうそれっぽくなってきた。中学受験の親子がウジャウジャ。母と娘、母と息子、どの母親もバッチリ決めている。子どもは一様にバックパックを背負っている。まるでグラビア雑誌にでてくる中学受験親子のモデルたち。「へぇー、こんな世界がホントにあるんだぁ」と、業界の人間にあるまじき素朴な感動をした。
 部屋に入って、娘は勉強。家人は所用で出かけ、ぼくは村上春樹訳の「グレート・ギャッツビー」を持ってベッドへ。午後遅く、ベッドに寝転がって、好きな本を読むなんて、いったい何年ぶりのことだろう、と期せずして訪れた余暇の時間を満喫。さすがに村上訳のニック・キャラウエイには感情移入しやすい。デイジーの声が、サラ・ブライトマンの声と重なって聴こえるなぁ、と思っているうちに、そのまま眠りに落ちた。
 目覚めると、日が暮れていた。娘によれば、いびきをかいていたそうな。一気に本をよみあげたころ、家人がもどり、三人で食事へ。向かいのデパートのレストランに入ると、またまた、受験生親子の巣になっていた。どのテーブルも親と子のペア。「やれやれ」と思ったけれど、まぁ、ホテルがたくさん集中している地区だから、当然といえば当然。
 夜は早めに就寝。翌朝、6時起床。6:45からの朝食を取りに行く前にフロントで前もってチェックアウトを済ませておいた。受験生が集中する前に、さっさと済ませておこう、と思ったのだけれど、朝食をとるバンケットルームに行って驚いた。受験生の親子に占拠されている。母と娘、母と息子、父と息子、みなさん一様に固い表情で食事をとっている。「やれやれ」きょう一日で、いったいどれだけの経済波及効果があるのかしらん、と、オヤジ的な発想をしながら、朝食をモリモリ食べた。たぶん、このあたりから、僕は浮かれ出したにちがいない。その日一日、「楽しそう、子どもみたい」と何度言われたことか知れない。
 出発。前後に連なるタクシーは全て受験生の親子。あっちの団体バスもこっちの団体バスも塾御用達。全車怒涛の奔流となって、市内から山の上の学校へ。学校に着く直前の狭い曲がり角で、降りてくる団体バスと鉢合わせ。「なんでこんなところでこんな目にあうんだぁ」とののしりつつ、バスのドライバーに「早く行け」と迷惑がられながら、恐る恐る角をこすらないようにゆっくり前進。「やれやれ」
 到着。自家用車でごったがえすグラウンドの手前で、娘と家人を降ろし、ぼくは遥か彼方の駐車スペースに移動。裏手から体育館に入ると、1000人近い児童とその親と塾関係者の群集。「なんだこれぇ」とテンションがまた上がってしまった。正面にまわって娘らと合流。高校受験生の控え室に移動した。
 少し待って、指示に従って受験生は校舎へ移動。僕たちは長い待機の時間。毎時間、問題が張り出され、売り出されるけれど、一切見なかった。見れば心がざわつき、いらないことを言いそうになるから、試験が全て終了するまでは、見ないことに決めた。
 お昼前、近くのコンビニまで、お弁当を買いに往復した。坂を下り、登ってくる往復十分で、ふくらはぎに筋肉痛。「やれやれ」。昼食は娘といっしょにとった。顔面蒼白の娘、極度の貧血状態であることは一目瞭然。とにかく「食べろ」と促し、アホな話ばかりしていた。「まるで子どもみたい、何はしゃいでんの」と強襲されても、意に介せずウヒャウヒャやっていた。
 午後、あと一科目ぐらいの時間帯に、プッツン切れて、ガクッと疲労感が押し寄せてきた。「もうダメ、早く帰りたい」と本気で思った。
 試験後、娘を乗せて帰路へ。雨の中、霧も少しかかった高速道路を「終わった、終わった」の大合唱で、再びサラ・ブライトマンをリピートしながら帰った。
 帰宅後、事件発生。よせばいいのに答えあわせをしてくれというリクエスト。本気でやりたくなかった。
 しかし、仕方ない、リクエストとあらばやりましょう、ということで、やってしまうと、親モードから塾屋モードに切り替わる。当然、ミスを見つけるたびに、ボコボコに怒り始め、それまでの和やかな団欒は一気に崩壊し、目は吊り上り、出てくる言葉は鋭さを増し、容赦なく反省を迫り、(内心、だから、したくないって言ったのにぃと、ぼやきながら)、引導を渡して、木っ端微塵にしてしまった。
 親としての限界がまさに露になってしまった。
 塾屋としての限界も露骨に出た。
 
 ということで、きょうから新規巻きなおし。
 初心にもどって頑張ります。
 
 以上、かんたんな受験報告でした。

タイム・トゥ・セイ・グッドバイ

タイム・トゥ・セイ・グッドバイ

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