「先生、『ジャック・ウェルチ』貸してください」

 と、児童が言った。僕が整理できずに転がしていた文庫本が気になったらしい。「このハゲ頭のオッサンがセクシーにみえたわけ?あんまり子ども向きの本じゃないけどなぁ、まぁ、興味があるなら貸してあげるよ」と言って渡したのは昨日。しかし、やっぱり無理があるような気がして、きょう、「こっちの方が断然おもしろいと思うよ」と言って、渡したのは、「マリー・アントワネット」(小学館)、もちろん学習漫画版の伝記、シュテファン・ツヴァイクや遠藤周作の著作ではない。表紙はまさにお姫さまのかわいい絵。
 塾のライブラリには「エジソン」(集英社)と「本田宗一郎」(小学館)の伝記漫画がある。いずれ、スティーブ・ジョブズ(アップルの創立者)や、ビル・ゲイツ(マイクロソフトの創立者)が登場する日もあるかもしれない。でも、サム・ウォルトン(ウオルマートの創立者)や、ジャック・ウェルチ(GEの元CEO)が伝記漫画になることはないだろう。
 ヘンリー・フォード>>>>>本田宗一郎であることは間違いないと思うけれど、漫画になっているのは本田宗一郎。フォードはない。理由は明白だ。漫画に描きやすく売れる見込みのあるものが、出版されているにすぎない、ということだ。いちいち誰が描かれているか目くじらをたてることもない。最低限の客観的な情報がととのっていれば、誰が描かれていてもいい。身の回りにちょっと見かけない人物像に触れて、1インチでも世界観が広がればそれでいい。それで十分だ。
 早晩、伝記漫画は読み尽くされる、今度は活字で読んでいけばよい。そこのジョイントをどう工夫するか考えるところが塾屋の仕事になるだろう。

ジャック・ウェルチ わが経営(上) (日経ビジネス人文庫)