昨日は帰宅するなり

 眩暈に襲われ、リビングのソファでそのまま轟沈。爆睡。
 深夜、自分が声を出して泣いていることに気づいて目覚める。どんな夢をみていたのか、思い出せないけれど「オウオウ」と言葉をいまだ所有しない原人のように野太い声を絞り出すように泣いていた。その後の意識はない。ひょっとすると現ではなく幻であったかもしれない。
 朝、あまりの寝苦しさに目覚め、風呂に入った。1時間ほど湯船につかり、茫漠とした意識のまま無為にお湯につかっていた。全身の毛穴が開き、とめどない発汗の中で、ようやく人としての心の持ちようを取り戻し、バラバラに分解され無機的に散乱していた感情の断片がひとつにまとまった。しかし喜怒哀楽の感情をつとめて消そうとスイッチを切った。いろんな思いがよみがえることのないように回路を遮断した。
 着替えてリビングに戻り、TVをつけると無残なニュースがとびこんできたので、あわててTVを消した。とても陰惨な現実に向き合える状態ではない。人の世のあり方など、何も考えずに、何も感じないで、ただボーっとしていたかった。幸い、ずっと一人でいられたので、自分の感情のスイッチを切ったまま、誰とも話さず、沈黙の中で表情を失ったまま、機械的に春期講習の時間割を組み始めた。持ち時間を計算し、開講クラスに割り振り、行事日程を考えながら、日程をくみ上げた。
 1日寝かせて点検すればよいところまできたので、ソファに座ったまま新年度の準備作業に入った。教科書を変えよう、と思った。依然としてぼんやりとした意識でメリットとデメリットを書き出し、のんびりと検討していった。関連事項を加え、どんどん派生的に伸びていく概念図に、さらにあれやこれや補足事項を加えていく。まったく何の感動もなく、突然極限が現れ、マップは完成し、何をどうするか、パタリと決まった。考えることすら拒否されたように。
 圧倒的な感情の起伏にさらされたあとの反動も静かに消えた午後3時過ぎ、僕は塾にやってきて、きょうの業務を始めた。電話で入塾試験の申し込みを受けた。来訪者の入塾案内も行った。重要なメールを何本か受信し、失礼にならない程度に急いで返信した。
 授業をした。解説をした。生徒を立たせて怒った。生徒を座らせたまま叱った。小テストを行った。問題を解いた。一日が終わった。
 
 明日、小6の生徒たちと再会し、中1の学習を始める。彼らと再会するための僕の準備は整った、と思う。
 何かを待つ心がないわけではないけれど、後ろ髪をひかれるものがないわけではないけれど、彼らに新しい未来を提示し、何をどう進めなければならないか、何に全力で取り組まなければならないか、僕は語らなければならない。身をもってまた示さなければならない。
 塾屋が塾屋らしくふるまう、とは、たぶんそういうことだ。

 新中1の生徒の募集もいったん停止します。入塾試験枠がいっぱいになりました。あしからず、ご了承ください。枠があきましたら再募集をかけます。