新緑萌ゆ

 所用があって広島市内まで往復した。山陽道沿線の緑が殊のほか美しかった。昨日の雨のおかげで、ライトグリーンの山肌が木の葉一枚まで際立っていた。カーブしながら時速120㎞でトンネルに突入するとき、思わず「ああ緑に吸い込まれるぅ」と叫んでしまった。行きも帰りもセルジオメンデスの新譜をガンガンにかけ、ラテン的激走に手拍子・熱唱、車内がカラオケルームと化した。

 塾に着いたのは午後5:48.すでに7人の生徒が待っていた。帰りの車内で飲んだチオビタ1本アリナミン2錠が効いた。中1はすぐに中間試験対策。小6ヤギさんチームは、比の特訓。自習の生徒もちらほら。そこからドラマが生まれた。

 英数ともに大の苦手で、ほぼ毎日自習に来ている中2の生徒が、中1の教室の一番前に座らされ、1対1の特訓を受けた。例によって、こんがらがった断片的な知識が、きょうももつれにもつれ、目にするだにおぞましい無茶苦茶な答案を作る。例によって僕も即時激発「何考えてんだ!」と十字砲火を浴びせる。「俺は絶対あきらめない、お前に必ずマスターさせる!分かってんのか!」と吼える。もう怒鳴らないよ、とこの前約束したことはすっかり忘れた。
 苦闘2時間、真っ暗闇に曙光が差し、ひょっとしてこれは、という淡い期待が動かし難い確信に変わり、「おいおい、できたじゃないか」の声になった。
 帰り際「おい、気分いいな」「はい」ということで、きょう、生徒がひとり、大きな壁を越えた。

 まぁ、その合間に、小6のスクランブラーたちがごつい指導を受けたり、中1の男子がざくざく切り刻まれたり、小さなエピソードには事欠かなかったのだけれど、最後は高3生から質問された整数問題を、算数で強引に解いてしまったけれど、春の宵闇がきょうは優しい相貌で塾の電飾看板を包んでいる気がする。

 いや、明日になればまた、どうしようもなく地を這うことは分かっているけれど、せめて一晩、ささやかな達成感を大切に持ち帰りたい、と思う。