再び、来た!

午後3時
早々と飛来した黄砂にかすむ蔵王山を見やりながら、きょうも物憂い気分で、そろそろ小4の授業準備をしようかなぁ、明日は漢検があるなぁ、と思っていたら、電話が鳴った。ドキンとする。胸騒ぎがする。何か起きる!と根拠もなく勝手に決めつけ受話器をとる、聞き覚えのある小6女子の生徒。
 この子には、実は市立福山中の合格の期待が大きくかかっていた。類まれな作文力をもっていて、盈進にも併願で楽に合格できる基礎力があり、学校の成績も申し分ない、面接もメリハリきいて上手、検査1で失敗しなければいけるはず、と思っていた。結果はアウト。検査1が難しかったそうな、、、涙を呑んだ。
 しかし、あきらめの悪い塾屋は、繰り上げ合格の期間が終わるまでは、しぶとく期待してしまう。昨日のことだ。突然、午後、彼女がふらっと塾にやってくる。やや!嬉しい知らせか、と一瞬身構えた。しかし、伊達に歳はとっていないから、そんな期待はおくびにもださず、内心どきどきしながら「どうしたの」とさりげなく用件を尋ねたら、「懇談の案内をもらっていません」。というきわめてクールな事務的用件、「ああ、君休んでいたものねぇ」。いったん勝手にふくらんだ期待感が音速でしぼんでいくのを絶対に悟られないように、「あれぇ、このへんにあるはずなんだけどなぁ」と言いつつ、ペーパーを渡して、「じゃぁ、また」と何気なく別れた。辛かった。
 そして、きょうの電話。冒頭「市立から、、、」の一文節を聴いた瞬間、「来たかぁ、繰り上げぇ、おめでとう!!」湧き出てくるお祝いの言葉を1カートン速射砲のように口にした。かわってくださったお母様にも、完璧な躁状態で委細かまわず、開け放したドアから駐車場に響くような大声でお祝いを申し上げた。
騒々しく感情を爆発させ、受話器を置いたあと、ひとり静かに目を閉じた。春が匂った。

午後5時
小5の生徒はいつもどおり元気よく(やかましく?)全員集合、明日の漢検に備えて演習を敢行。今年最後の漢検。準2級に4名挑戦、合格したらLEC最年少記録の更新になる。果たしてどうなるか、と言いたいところだが、LEC小5の課題はは準2級より、むしろ、4級受験者にある。算数に限らず、漢字力も両極分解が加速する年頃なので、漢字に苦手意識を自覚した子達は、このあたりから停滞期に入ることが多い。スパッと状況を改善する方法はないので、時間を惜しまず、持続的にとりくんでいくことになる。漢字については、非連続的飛躍というものはたぶんありえない。苦手な子は、ゆっくりとおおらかにやっていくことに尽きるように思う。字を覚えるのが得意な子は、きっかけさえ与えれば、ほっておいても覚えていく。字を覚えるのが苦手な子は、努力が結果に結びつかないことが多い。サボっていると決めつける前に、その子にあった効果的な暗記方法を見つけてやり、くじけず立ち向かう姿勢を崩さないように支えてやることが、たぶん、塾屋の務め。
 小4は、なんと、合格ラインを越えられそうなのはミスタ・スポックひとり。ちょっと待ってくれぇ、という結果にたじたじ。焦らない、焦らない、この子らにはあと二年ある。
 
午後9時
 中2は英語の総復習がボチボチ。長文読解を明らかに粗雑に扱っていた生徒に雷一撃。怒るのは期待の裏返しだと思って欲しい。数学は、場合の数、中学入試ですませたあたりの問題ばかりで、ちっとも手ごたえがない。でも、初めての子もいるわけで、その子たちのことも考えねばならない。
 英検の結果を返却。3級の基準点39にあと1点及ばなかった子が3名。落ちるときはそんなもの。ギリギリ合格するより、ギリギリ落ちて雌伏のときを過ごすほうがあとあと伸びることが多い。辛いだろうけれど、きちんと受け入れて、良い教訓にして欲しい。
 
 高校初級は、やっと複素数だぜ。非常にマジカルな数を扱うわけだけど、その醍醐味をどこまで伝えられることやら。

午後10時10分
 「先生ぇ、時間!」というT嬢の鶴の一声で、授業終了。もし声がかからなければ、僕は時計も気にせずにどんどん数学の解説をすすめていたろう。LECではよくある話、誰がどの瞬間に授業を止めるか、は、そのとき次第なんだけれど、高校生は一般に遠慮がない。「コラ、オヤジ、時間なんだよ、さっさと授業やめてくれ」


「先生ぇ、これどうも」とニコニコ顔の高3S嬢。
「ああどうも、『パン屋再襲撃』(村上春樹)と『フラワーオブライフ』(よしながふみ)か。おもしろかったでしょ」
「はい、おもしろかった、ふふふ」
「受験が終わったらまた何か貸しましょう」
「はい。ふふふ、立命受かりました」
「おめでとう!センター入試ね、予定通りですよね」
「ええ、でもショウガクセイでよかった。ふふふ」
「ショウガクセイ?小学生って?ああ奨学生。授業料免除?」
「ううぅぅん、半額免除。ふふふ」
「へぇすごいや、でも、、、」
「でも、行かないと思う。ふふふ」
「だよね。まぁよかった」
 ということで、最初っから最後まで、ミルクがとろけるような緩みっぱなしの笑顔で会話するS嬢でありました。おめでとさん。

 さぁ、明日も頑張るぞぉ。
 と、
 明日から懇談開始。朝からオープンなので、受験生は、朝からOKです。
 懇談予定の保護者の皆様、よろしくお願いいたします。