5月も終わる

自転車で転倒した、金曜の夜、帰宅途中のことだった。

拡張工事中の歩道が走りづらくて、車道に出ようとした瞬間、前輪が縁石に乗り上げバランスを崩し、車道に無様に転がった。幸い走っている車はいなかった。左足首を捻挫し、右膝に擦過傷を負ったけれど、ズボンが破れなかったので実害はゼロだった。
起こした自転車の激しくゆがんでしまったカゴを元通りにする気力もなくペダルを再び漕いだ。右膝に焼けるような痛みを感じながら、あまりの情けなさに笑いが出た。車を運転すればバンパーをこすり、自転車に乗れば転倒する。いったい何やってんだ、これが俺の人生か、と妄想にとらわれつつ家までたどりついた。道中、ウォークマンで聞くアンドレア・ボッチチェリのバラードが切なかった。
その夜、転倒の顛末をとても家族に話す気にはなれなかった。そ知らぬ顔をして黙っていた。話せばどういう反応が返ってくるか容易に想像できた。
ところが土曜の夜、油断した。
くつろいで、半そで半ズボンのラフな格好をしていたら、娘に目ざとく右膝の傷跡を見咎められた。仕方なく事情を話した。娘は呆れ、妻はあからさまに侮蔑の表情を浮かべた。「過労?いや過老?」と揶揄され、「車にも乗れない、自転車にも乗れない、たぶん、歩いても溝に落ちる」と評され、まぁそんなところだろう、と同意した。

今朝は22分かかって歩いてきた。幸運にも溝には落ちなかった。まだ大丈夫らしい。