最近読んで面白かった本

■「それってどうなの主義」 斎藤美奈子それってどうなの主義 (文春文庫)
 マスメディアを通して流れてくるニュースに接して、違和感や不快感を感じても、どう説明してよいかわからないことがたくさんある。斎藤美奈子さんのこの本を読んでいると、溜まっていたストレスが一気に解消していく。溜飲が下がる思い、とはこのこと。いや、ひょっとすると、「アンタ、気安く同意しないでよ」とか、バッサリやられるかもしれないけれど、読後感がこれほど爽快な本も珍しい。
 ひとつひとつのお話が、軽いノリなのに非常に精緻に組み立てられていて、容赦なくズバッと本質を突くひと言に他に類を見ない強力な説得力がある。村上は、畏れ多くも、政治学者丸山真男をイメージした。天才の芸である。
 日々の出来事を扱う評論は、出来事が過去のものとなり風化していくことで、その価値を失うことが多い。しかし、「それってどうなの主義」で展開された斎藤美奈子さんの主張は、これから50年たっても色あせることはないだろう。
 解説を書いている、あの今を時めくニュース解説のプロ、池上彰氏が商品価値を失い(あるいはもっとイケメンのもっと上手な若手にとってかわられて)、10年後にTV・雑誌・新聞から姿を消していても、斎藤美奈子さんの評論の鋭さはいっそう磨かれ、読者を楽しませ、考え込ませ、知的に鍛えてくれることだろう。なぜなら、斎藤美奈子さんの発想、表現力にあふれる独創性は突出しているからだ。
 ただ、それが、日本の社会にとって幸福なことなのか不幸なことなのか、一概には言えない。彼女が舌鋒鋭く迫り、思いっきり笑わせてくれることは、社会的には困ったことが多いからだ。とんでもない社会になればなるほど、彼女の筆は冴えわたる、ということになるであろうから。

■「ごく平凡な記憶力の私が1年間で全米記憶力チャンピオンになれた理由」ジョシュア・フォアごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由
 書名で損をしている。下手をするとくだらないハウツーものと間違われる。確かに、このルポの縦糸は、筆者の全米記憶力選手権で優勝するまでの一年間の軌跡だが、中身はもっと多彩で知的刺激に満ちて奥深い。記憶術の歴史、記憶力に関する心理学的分析と事例、記憶術をビジネスにする群像、とりわけスリリングだったのは、サヴァン症として知られているダニエル・タメットを描いたくだり。驚異的な計算能力が「共感覚」ではなく、実は訓練された暗算能力ではないか、という追及は圧巻で、筆者の結論は控えめであったけれど、読む者には明白であった。
 そしてエピローグ。全米記憶力チャンピオンになって、彼が得たものは何か、極めて平凡で、それでいていたいへん人間的な結論に深く納得し満足した。
 塾屋が拾える記憶術の技術的ヒントもたくさんあった。amazonから推薦される本を購入することはめったにないのだけれど、これは、大当たり! であった。