異世界、あるお伽噺

異世界、ある王国の宮廷内の一室。窓のない防諜設備の整った部屋であるにもかかわらず、5人の男の声は抑えられている。数日後に迫った御前会議では、冬期講習会の最終計画案が上程され、国王によって裁可される。宮廷内の勢力争いから、冬期講習は毎年政争の具にされ、計画案の検討は先送りされてきた。しかし、もはや一刻の猶予もない、、、

第1回 検討会議  前哨戦
議長α「時間がない。昨年の計画を踏襲するということでよろしいか」
大商人β「異議あり、国王陛下は王国の現状を鑑み、プランの変更を望んでいらっしゃる」
門閥貴族γ「だからといって、改編するには手間がかかりすぎるじゃろ」
改革派官僚ε「何、おっしゃってんですかぁ。税制を抜本的に考え直すわけじゃなし、たかが冬期講習ですよ、どうにでもなりますよ」
守旧派官僚κ「お前はこれまでの苦労を知らないからそんなことを言う。冬期講習は、短期間、入試直前、生徒の健康管理、クリスマス、大晦日、お正月、英検準備、春や夏より条件が厳しいんだ」
門閥貴族γ「そのとおり。どう転んでも同じ様式にしかならん。できあがったプランに今更手を加える余地はないんじゃ」
大商人β「何をおっしゃる。毎年、同じ生徒が受講するとでも?昨年の生徒と今年の生徒が同じだとでも?雰囲気も違えば学力も異なる。この一年の指導の仕方にしてもずいぶん変えてきた。同じ講習会をできるわけがない。そもそもこれまでにも大きな改編は何度かあった。今年もできぬことはない」
守旧派官僚κ「ああありました。それで何か革新的な結果でもありましたか?根本的にやるべきことに毎年差はありません。生徒について変動要因はあるでしょう。しかし、大枠としての枠組みを変更する必要性が生じるほどの大きな変化ではありませんな。それは授業内容の組み立て方で、つまり運用レベルでで解決できる問題です」
改革派官僚ε「それは小手先のごまかしだってば。無視してはならない差異を放置し、従来のあり方を所与の条件として固定化していたら、変化し続ける現実に機動的に対応できないじゃん。イノベーションを忘れた組織は形骸化して衰退することぐらいお分かりでしょうに」
議長α「抽象論は不毛だ。ではβとεは具体的な改革案を出せ。γとκは彼らのプランの妥当性を検証しろ。30分後に討議を再開する」

■資料2011−01
大商人βと改革派官僚εの提案骨子

□日程区分案
W 12/22−26 (5日間)
X 12/27−30 (4日間)
Y 1/2−6 (5日間)
Z 1/7−10 (4日間)

□時間帯区分案
A 8:20 -12:10
B 13:00 -16:50
C 18:00 -20:50
D 21:00 -22:00

□時間割原案
    W    X    Y     Z
A   小4   小6   小6 中3理社
B   小5   中2   中3B 高初英数
C   中1   中3S  セン数 高1S数
D   高2S   セン英  セン英 高校上級英

注 セン=センター

第2回検討会議  威力偵察
議長α「早速検討を開始する。κが問題点の指摘、εが逐次回答、βは補足。始めてくれ」
守旧派官僚κ「22日のAは、公立の小・中学校は終業式では?」
改革派官僚ε「はい。22日の時間枠AとBは昨年同様OFF。22日は時間枠C=中1からのスタート、昨年同様です。いじりようがない」
門閥帰属γ「ということは、小4、小5は4日間じゃな。小4はともかく、小5の期間が短い気がするのぉ、、、」
大商人β「小5にはX-Aで5日間の連続試験を組む予定だ。算国理社5連発。2学期の復習は完璧にすむ。昨年より安価でしかも学習量は確保できる」
守旧派官僚κ「小6の冬スタイルを小5に適用したということですね。ふむ、なるほど。さて、小6は例年同様、毎日ということで?」
改革派官僚ε「もちろん。毎日お弁当持参で時間枠ABを使います。授業のない時は、昨年同様に02で連続試験演習。ただし、カピバラ-イリオモテとヤマネコは異なる問題を使用します。学力差がありすぎますから」
議長α「小学生についての検討はここまでとし、小5の2011スタイルは、承認されたものとする。よろしいな」

第3回検討会議 格闘戦(ドッグファイト)
守旧派官僚κ「時間枠BとCの間に1時間10分の空白を作ったのか」
改革派官僚ε「それが、今回の目玉ですね。余剰性の確保です。利用価値はいろいろあります。生徒の質問タイム、欠席者の補充授業、授業準備、何にもなければ、村上が惰眠を貪るかもしれませんが、まぁ、そういうことにはならんでしょう。彼が03に引っ込んだとたん必ず誰かがドアをノックして『先生ぇー』(笑)」
門閥貴族γ「しかし、全体のコマ数が激減する。講習参加の生徒のべ人数が減るぞ、それが何を意味するのか、わかっておるのか」
大商人β「目先のことをおっしゃるな。生徒数が今の半数だった時代にできたプランを原型にして、あれこれやっていたから無理難題が生じていたのだ」
守旧派官僚κ「いや、現実を見ていないのあなた方でしょう。増え続ける生徒数に応じてクラスを増やし、休日を削り、コマ数を増やしてきたんです。これはまさに現状に逆行する措置ではないですか」
改革派官僚ε「現状に流されていただけじゃないですか。もう限界ですよ。これ以上の肥大化は、そのメタボな体つきだけにしたらどうですか。思い切って発想を転換するんです」
門閥貴族γ「わしが言いたいのは、のべの受講生徒数が減るぞ、ということだ。お前らの神学論争に興味はないわい」
大商人β「表向きにはそうなる。しかし、長期的展望にたてば、規模を縮小しても、講習内容を改良するべき時が来たのだ。正規の授業時間以外に柔軟に対応できる時間がなければ、日々生じるこまごまとしたケアに対応できぬ。必然的に質的劣化に陥る。その結果失われる評価は、目先の損失どころではない。あなたならわかっていただけると思うが」
守旧派官僚κ「今までは、授業だけでやってきた。授業内で対応できる」
改革は官僚ε「だから、無理なんだってば。現場で悪戦苦闘してるのはよく御存知でしょうに」
門閥貴族γ「甘っちょろいことを言うな。なんのために経験を積んできた。熟練したノウハウを駆使すれば、そんなもん、どうにでもなるじゃろうが」
改革派官僚ε「なります。なりますが、楽しくありません。楽しめないのです。1日に一コマであれ空枠があれば、状況は劇的に変わります。余剰性を確保できれば楽しめるんです」
門閥貴族γ「こいつの言うことはどうもわからん。βの話はまだわかる。規模の拡大を止めて、品質向上を目指せということじゃな。ということは、今後さらに、選択と集中を進めて、塾そのものの再構築を図るおつもりか」
大商人β「慧眼ですな。意図するところはまさにそうだ」
議長α「今後の展望は別の機会に討議する。では、夕方の休憩時間枠は承認されたものとする」

第4回検討会議 持久戦
守旧派官僚κ「中2や高校初級の授業が日中にあるが、部活とぶつかることはないのか」
改革派官僚ε「時間帯からいって、ありうると思います。でも押し切ります。オフシーズンですから、部活をやすんでもらおうと考えています。多少の反発があっても押し切ります」
門閥貴族γ「どうかな、強気な姿勢が裏目にでなければよいが。中3Fがないが?」
改革派官僚ε「はい、過去問の解説は個別にすすめます。工程表にしたがって05で過去問演習をすすめます。クラス単位の学習は現段階で不要と判断しました。また、高校生については、授業の前後に1時間のテスト時間をとります。ルーティンの小テストを講習中も継続する予定です。詳細は別紙にまとめます」
議長α「問題点の検討はすんだものとする。では、次回、最終チェックをおこなって、検討会議を閉会し、御前会議に提出するものとする」