演習・講評・説教・オヤジ

中3生といつもの話。

「君のこの成績で受かるかも知んないよ、内申はあるみたいだから滑り込みセーフってことになりそう。でも、入ってからたいへんだよ、これじゃ」

「わかってる?えっ?頑張る?うん、まぁ、そりゃそうだろう、いや、みんなそう思ってるし、それって当たり前のことなんだよ。頑張って当たり前。わかるかな、中学みたいに余裕なんかぜんぜんないの。たぶん、君が漠然と想像しているより、ずーっとずーっとたいへんなの。進度は無茶速いし、課題は多いし、で、周りの連中はみんなできるし、要領いいし、なんかうまくいかないなぁ、とか、とまどっているうちにさ、ぐーんと離されて、、、、」

「いや、やってみなきゃわかんないことはたくさんある、過去にチャレンジしてうまくいった人も知っている。できれば、そうなって欲しいよ。ただねぇ、君の勉強に厚みを感じないんだよ。なんか愚直にね、手抜きせずにね、ドーンとやり抜く感じがもっと欲しい」

「こだわりっていうのかなぁ。才能のあるなしにかかわらず、それなりにできるようになった奴らってさぁ、東大、京大、阪大にいった奴らって意味だけど、できない問題とかあるとねぇ、恐ろしいほどの集中力を発揮して、できるようになるまでとことん考え抜くガッツがあったんだよ、これはまぁ大学入試レベルの話だけどね、でも、高校入試もおんなじだよ」

「頭いい奴らはわかった気にならないんだよ。ホントにわかるまでやるの。そこが並の連中と違う。ほら、『わかったような気がする』時ってあるでしょ。で、次、やるとさ、『あれぇ、この前、わかったと思ったんだけど』とかね、できないことってあるじゃない。それがないの。でも、君にはたくさんあるよね」

「ごまかしてる、とか言うつもりはない。たぶん、その時は『わかった気』になってたんでしょ。でも実際はそうじゃなかった。そこの完成度をどう高めるかっていうのは、ひとそれぞれでね、反復して取り組むっていうのが原則だけど、まぁ、言っちゃえば深く考えるってことだと思う。いっぺんに深いところまできちんと考えぬける人は、いっぺんでもいいんだよ。でも、なかなかそこまで透徹した思考力をもつことは難しい。だから、ふつう、人はなんどもやっているうちに、深く考える力を養えるようになるんだと思うよ」

「でね、君には、今のところ、いっぺんに深く考える力はない、そして、残念だけれど、必要にして十分な反復演習も積んでいない。量も不足しているし、自分の失敗に淡白すぎるから、演習量に応じた学力の伸長もはかばかしくない」

「おそらく、今のままでも何とかなるって思ってるからじゃない。そんなことない?そうかなぁ。とりあえず、高校いければいいって思ってるでしょ。その先のことはあんまり考えていないよね。大学はどこいきたいの。いいとこ?そりゃそうだ。でも、どうして?社会にでるときに有利になるから?ふーん、で、それから?その先はわからないか」

「10年後に自分がどうなっていたいか、もうちょっと考えてみないとダメだよ」

「2021年の日本について僕が言えることはね。国内総生産、GDPの伸びはもうずっと止まったまま。今、中国に抜かれて世界第三位ね。もっとその地位は低下してるよ。円高の進行で、製造業はいまよりずっと厳しい。国内で製品を製造して海外へ輸出する、いままでの貿易立国のあり方が根本的に変容してる。工場の海外移転はますます加速していくでしょ。産業の空洞化の進行は止められない。まぁ、その分、安い工業製品がどんどん輸入されるから、物価は安くなるだろうけれど。ユニクロのような製品が、家電や自動車でも増えると思えばいいや」

「消費税は15%から20%ぐらい。社会保障制度は崩壊寸前で、年金受給年齢は確実に引き上げられているはず。いやんなるくらいの少子高齢社会。爺さん婆さんが多くてデカイ顔してるし、経済成長は停滞してるから、現状を維持するのが精一杯で、新しいモノがぼこぼこでてきたり、社会が新しい活気のある次元へすすんでいくような開放感とかなかなか味わえない。つまり閉塞感は今よりもっと強くなっている」

「あの石川遼や浅田真央のような、ごく少数、ガキの時から徹底的に才能をきたえられたスーパーチャイルドは出てくるだろうけれど、平均的な若者は、大勢順応主義でさ、目立つことが嫌いでネットが大好きで、総オタク化してるんじゃないの」

「いやだ、そんな社会?そうだね、ホントにそうだね。夢がないよね」

「でもねぇ、ゲームとアニメが大好きで、勉強嫌いの君たちみたない子どもがそのまま大きくなってごらん、この社会がいい方向に変わると思う?どっかの誰かが、ちゃんとやってくれる?ありえないって、そんなこと。仮に誰かが社会に役立つ人間になりたいって、素直に思って大きくなっても資本主義社会はお金儲けが優先するから、そう簡単じゃないの」

「お金儲けすることはわるいことじゃない。みんなが一生懸命働いてこそ、経済は成長して日本社会は豊かになる。究極の社会貢献だっていえないことはない。たださ、所得の再分配がきちんと機能してればいいけれど、社会の豊かさって平均的にゆきわたらないことが多いんだよ。ある特定の人たちのところに偏る傾向があるの。そこは政府が上手に調節する必要があるんだけどね、なかなかうまくいかない。利害はいつも衝突して調整はいつも失敗する」

「話がわかんない? うーんとね、自分が何をしたいかってことをもっとしっかり考えさいって言いたいの。この社会は、文句を言わずに低賃金で長時間労働する若者を食いものにする構造があって、世界的にみて高度な生活水準を維持することはできても、心の満足度はあまり高くない、潤いの少ない暮らしになりかねないシステムがあるわけ。そこで、自分なりに充実した生活を送っていこうとすると、はっきりしたビジョンをもって生活しないと、明日なき戦いを日々戦い抜くような消耗戦にまきこまれるんだよ」

「ビジョンがあって、構想力のある人は、今、自分が最低何をしなけければならないか理解できるから、受験勉強も将来の自分に対する投資にほかならないないと考えて、惜しみなくエネルギーと時間をつぎ込めるんだよ。こだわって勉強するの。そして先行投資が無駄にならないように、ステップアップしたらまた、そこで頑張れるの」

「ビジョンはもてない、未来に対する構想力もないってことになると、受験勉強が自分自身に対する投資だってことに気づけないから、避けて通りたくなるよなぁ。いや、勉強以外の分野で生きていくビジョンがあるなら、それに投資すればいいんだよ。ダンスでもピアノでも、それが自分の生きる道だと思えば徹底的にやればいい」

「部活動?将来の自分にとって必要だと思えば、やればいいんじゃないの。でもバランスはとってよね。そのスポーツで生きていくつもりなら徹底的にやればいい。そうじゃないなら、ほどほどにしておけって」

「将来のことは、つかみどころがない。でも、だからと言って棚上げにできない。どこかで選択する必要がある。15歳は、その決断に早すぎることはない。そのためには、考える材料を集めること。素敵だなって思える先輩の生き方を真似するとか、尊敬できる人の考え方に学ぶとか、アンテナを広げて新聞記事を読んだり、本を読んだりしていれば簡単にモデルに出くわすはず。ネットで検索かければ、おもしろいブログのひとつやふたつ必ずヒットするだろう。探せば必ず素材は見つかる」

「すまねぇな、いらないお説教になった。とにかく、今の学習スタイルをもっと厚みのあるものにしてください」