渡る世間は知らないことばかり

先日、車内のラジオから聞きなれた旋律が流れてきた。
ポンキッキーズで流れていた”LET'S G0! いいことあるさ"。
この曲は、LEC生ならたいがい知っている、入試直前期、重苦しいムードの時に村上が授業前にかけると、妙に教室中が盛り上がってやる気が出るという、LEC隠れ名盤 塾歌あつかいされていると言ってもよい曲だ。
ところが、ラジオから流れ出る歌詞が英語じゃないか。しかも、サビは"Go West”のリフレイン。なんだ、こりゃ、向こうにいって歌詞かえられて、西部開拓時代の歌になったか、と妄想が湧いた。わずか10秒ほど曲の終わりを聴いただけなので、真偽不明。つきとめなければならない。

グーグルで最初に見つけたのが、 PET SHOP BOYSのPV。CGを駆使した映像は、明らかにソ連の全体主義を皮肉った歌になっていた。時代的なズレを勘案すれば、ロシア脅威論。でももっと冷めた目で眺めたら、アメリカ民主主義の底の薄さをあざ笑うようなシニカルさが漂う。無機的な表情をして中国人っぽいコスチュームで歌う歌声がテクノサウンドで響くと、ほとんどジョージ・オーウエルの「1984」,ビッグブラザー登場!というシチュエーションで笑える、笑える。べつのLIVE映像を見たら、ロシア陸軍の軍服を着て歌っていたので、まぁ、そういうことらしい。

原曲は "GO WEST" で、"LET'S GO! いいことあるさ" がカバーだと知った。ちゃんと調べれば、タケカワユキヒデさんは、作詞だけ。あらまぁ、天才はこんないい曲もつくるのか、と思っていたら、違ったのね。

実は問題はここから。当然、探索の行きつく先は、最初に歌ったVILLAGE PEOPLE. もともとは彼らのオリジナル曲。西条秀樹さんがカバーした "YOUNG MAN" で有名なグループ。あからさまに”ゲイ”をオープンにしていた人たち、どうやら、ゲイに厳しいニューヨークの社会を皮肉って、ゲイに寛容なサンフランシスコを賛美する歌になっているみたい。ライブ映像をみたけれど、インディアンや兵隊さんの格好をしてダンス・パフォーマンスをやっている舞台は、今なら場末のゲイバーのノリでしかないように思われた。歌はいいのに。

この曲はサッカーの応援歌にもつかわれている、とかあったので、調べてみたら、ひぇー、FIFA公認かい。'93年ころねぇ、子育てで忙しかったし、福山で独立開業して2年目でテンヤワンヤの頃だもん、覚えてねぇーよ。

ということで、
素朴に「子どものための名曲」だと思っていた曲が、
実は、’70年代末の同性愛解放の歌(これをプロテストソングと呼ぶか微妙やのう)、
’90年代前半のソ連崩壊肯定を歓迎する歌(もうひとひねり効かせているように思えてしかないんやけど、まぁそうらしい)


と、ここまで書いて、GO WESTの意味を調べていたら、ネットで二つの記事を拾った。
引用するにはちょっと長いので、興味のある方は、直接お出かけください。


GO WEST というフレーズが、もともとアメリカ社会で、まるで「少年よ、大志をいだけ」というような意味をもっていたことを下の記事で知った。ふぅーん、社会変革の意味があるんだ。

http://chobisgarden.blog60.fc2.com/blog-entry-351.html


そして、PET SHOP BOYS の歌う"GO WEST" が、景気のいい曲なのに何かひっかかる、単純に「ソ連崩壊万歳!西側自由主義社会万歳!」に聞こえないわけが下の記事でわかった。商業路線としてわかりやすい構図にのった一因が、東欧の変革と元の曲がロシア国歌に似ていたからとはねぇ。軍隊の行進とマッチしたり、サッカーの応援歌になったりするのも納得なんだけど、実は、衝撃の事実は、記事の最後。PSBの歌う”GO WEST”がなぜ、一筋縄で解けないのか、ちゃーんと理由があった、それはHIVだった。

http://bebeisobe.cool.ne.jp/bebe/marilyn/psb/margaret/vol51.htm


ふとしたきっかけで、ある曲を調べていくと、知らないことがどんどん出てきて、気がつけば朝になっていたなんて、何年ぶりのことかしら。

これってまったく塾屋の生産性に寄与しない活動だ。
日々の仕事に何の足しにもならない。ゲイとは無縁の世界で生きている人間がどうしてここまでこの曲にこだわったのか自分でもわからない。tubeで何回も聴き比べ、ケタケタと笑ったり、なんだろねぇと首をかしげたり、マニアックな話を読んで、へぇーそうだったのぉ、と膝をうったり、ものの弾みというべきか、無分別な好奇心丸出しのガキ根性を全開してしまったというべきか、、、ネットサーフィンで時間の経つのを忘れた。

まぁ、いいか、一昨日、BSでよせばいいのに、「アラビアのロレンス」の後半だけ全部見て、思いっきり沈み込んでしまって、挙句の果てに、翌朝、それを妻に話すと
「馬鹿ね、わかりきってるじゃない、権力に翻弄されて、板挟みになって、英雄が自己崩壊する過程になることなんか、初めっからわかってるんだから、さっさと寝ればよかったのよ」
とバッサリ切られて、もっとますます落ち込んだことを考えれば、謎解きの分だけずっと刺激的ではあった。

さて、でも、なにか、もう、あの曲を元気づけにかける気が失せたなぁ。