そろそろ授業の準備を

 しようと思いつつ窓から外を眺めていると、きょう受験校の合格発表があった小6の子が固い表情で歩いてくる。
 いやな予感に怯えながら、
  「おいおい、算数の最後の体積の問題をしくじっていたけれど、あれは捨ててもいい問題で、それ以外に大きな失敗はなかったぜ。」と、思っていたところ、なんのためらいもなくふつうに彼女は現れ、きわめてあっさり「合格しました。」と、苦もなく報告完了。
 きょとんとして、虚を突かれた思いで差し出された合格通知を受け取り、一瞬遅れるテンポで「おう、おめでとう」と言いつつ、用紙を見ると、『難関進学クラス』の文字。
 「なんだよぉ、難関進学クラスにちゃんと受かってるじゃない。ハイスコアだったんだねぇ、いつも320点ぐらいとれてたっけ?」と水をむけたけれど、今度は彼女の方がきょとん。
 過去6年分の結果の平均を咄嗟には答えられてなくてもそれは仕方ない。いつも六割五分程度あれば、問題なしとしていただけだから。
 「あれ、こっちの紙はなぁに、あぁぁ『特待』じゃない。」
 特待生通知の紙があることに僕はしばらく気がつかずにいたけれど、彼女は僕が気がつくまで辛抱強く待っていた。やれやれ、なんと間抜けな塾屋であることか。これほど間の抜けた応答をしたこともかつてない。しかし、これで附属入試に弾みがついた。この結果に少し自信もふくらんだことだろう。彼女にとって忌むべきものは、弱気とインフルエンザのみ。油断も慢心も彼女の辞書にはない。あと少し、その努力が報われる日は近い。