きょうも前進

 大学時代、山登りをしていた頃、どんなにきつい登攀でも、一歩ずつ交互に足を出していけば、必ず頂上に着くことを教えられた。入学してはじめて先輩に連れて行ってもらった北岳の雪の斜面を、渾身の体力を振り絞ってラッセルしながら登ったときのことは今でも印象深く思い出される。ただひたすら足元を見ていた。どこまでも続く雪の真っ白い斜面、四人が交互に先頭にたって、仲間のためにしっかり雪に足をいれて、ルートを作っていった。吐く息が白かった。全身汗みずくだった。垂れる鼻水すら拭く暇もなく、「紺碧の空」を歌いながら登った。半ばやけくそだった。他のメンバーに迷惑をかけるのが嫌で、ただそれだけで、男の意地だけで登り続けた。何も考えなかった。ただ足を左右交互に出して登った。登らなければならないときは、ただ登ることだけを考える。どんなにつらくてもしんどくても、それが務めなら、とにかく登り続ける。思考が停止しても、判断を保留しても、ひたすら登り続ける。責任感は、たぶん、一種の狂気であって、解釈を拒否して、実行するところにその本質がある。
 
 明日も頑張ろう。