昨日、盈進学園中学高校の塾対象学校説明会が、同校であった。

 いつもは駅前のホテルなのに、なんでだよぅ、という思いは消せなかった。というのも、愛車があの坂を登り切れるかどうか不安だったから。アクセスする道すら記憶に薄かったから。
 オートマチック車だけれど、登り始めた瞬間パワーダウンする気配がしたので、ためらわず、3速に切り替えた。すぐうしろに普通車がいたので、脇へよって先行していただいた。それからおもむろに、ゴゴゴゴォォと登った。気分はよかった、「おいおいお前にこんなパワーがあったのかよ、凄すぎ!」と、気分はヴィレル・ボカージュのミヒャエル・ビットマン。無事、頂上に到着。
 説明会が始まるまで、研究授業をのぞく。どうしても、熱心に語る教師の授業内容よりも、ボケーッとしながら、うつろに座っている生徒や、気だるそうに机と椅子の間に大きな体を押し込んでいる生徒の方に目がいく。僕が授業をしたら、彼らを覚醒させることができるんだろうか、と思う。昨夜、LECの中3生にちょっとそういう意味の話をしたら、連中はニヤニヤしていた。たぶん、僕が怒り狂って何をしでかすかわからない、と、考えているに違いなかった。
 で、入試説明会。例によって理事長のお話から。
 前の理事長がもっていたどうしようもなく嫌味な権威主義はないのだけれど、言語明瞭・意味不明のお話で、何をおっしゃりたいのかよくわからない。去年は、「盈進学園未曾有の危機に際して、理事長職を拝命した」ということで、まぁ、色々あって大変なんだろうなぁ、と思って聴いていた。だから、よくわかんない話であっても、慣れていないんだろうし、言いたくても言えないこともいっぱいあるんだろう、と思ってすませた。
 しかし、事大主義的な言葉遣い、脈絡もなく整理されていない話の展開を聴いていると、「いい人かもしれないけれど、あまりよく考えてしゃべっていない」と思わざるを得なかった。つまり、学校経営の理念がいまだに明確化されていない、深い思弁のもとに構築されているわけではなくて、とりあえず場当たり的にやっているんだろう、という気がした。
 それでも、盈進たたき上げの校長が実務をとりしきれば、学校運営には支障はおきないだろう、と思う。私立の学校によくあるケースだけど、校長や副校長がよそから一本釣りされてきて、現場の苦労も知らずにスタンドプレーをされては、現場がシラケルだけだろうし、何もわからないズブの素人が、下手にああしろ、こうしろって口出ししても、うまくいくわけがない。理事長が理事会と同窓会を抑えて、校長が教員を仕切る形に役割分担しておけば問題はおきないんだろうなぁ、と思いながら、校長の話を聴いていた。
 入試説明会の基本テーマは、「学力向上の取り組みと、その一年間の成果」にあった。学力向上のために、いかに地道な取り組みをしているか、チームリーダーの先生から熱弁を拝聴した。いくつか興味深い取り組みもあって、「へぇ×55」ポイントぐらい。そして、英語・数学の各担当から、模擬試験の成績データをもとにした学力向上を示すグラフをプロジェクタで映しながら、報告があった。そのへんから、記憶がなくなっていった。「うんうん成績があがったの、よかったね」と思っているうちに、恐ろしい睡魔に襲われ、目をあけていられない。
 うたた寝をしているとき、よくビクッと体の筋肉が不随意運動をするのだけれど、それをやってしまった。最悪だったのは、右手のすぐそばにお茶の入った紙コップがあったこと。右手の反射的な動きで、紙コップが吹き飛び、お茶を撒き散らしながら、床をコロコロ。「うゎぁ」と思って目覚めたときは遅かった。すごすごと、周囲の目を気にしながら、床にこぼれたお茶をぬぐう羽目に陥った。「穴があったら入りたい」、満塁でフォアボールを連発し、押し出しサヨナラになってしまった投手の心境であったよ。
 場面は、高校入試の推薦基準の話だった、担当の教頭先生ごめんなさい。この場を借りて謝ります。
 まとめると。
 1. かつて盈進学園を位置づけていた人間教育はすでに過去のもの。だから、そこに盈進の特色を求めるのはもう間違い。
 2. 進学校として生き残るために、体系的な指導システムを構築中。今のところ、改善方向は間違っていないし、成果もあがりつつあるようだ。
 3. しかし、盈進の学校としての個性、独自性はうすれた。トップリーダーのキャラクターと、根本的には学園の教育理念そのものを具現化する取り組みがないところに問題がある。
 4. 学力向上計画の今後の展開には期待できそう。だけれど、例えば、高校の社会科の選択科目数が少なかったり、数学を上手に教えられる教師が少なかったり、盈進学園の生徒が日常的に抱えている不満は、一朝一夕に消えそうもない。
 5. 完全中高一貫にして、カリキュラムを単純に絞り込み、クラス編成をもっと細分化していけば、かなりおもしろいことができそうな気がするけれど、中高一貫4クラスと、高校からのクラス(特別進学1+進学3)という変則的な生徒募集スタイルが癌。生徒の一体感を阻害し、カリキュラムを複雑にし、内部生と外部生の双方に不満を残すことになっている。この点が解消されない限り、盈進学園のもつ中途半端な印象はなくならないだろう。
 現場の先生方の、華やかさに欠けても地道に学校をよくしようとする試みは評価したい。しかし、生徒や保護者にアピールする柱が、盈進の謳うEE-PLANなら、ちょっと考え直したほうがいいんじゃないでしょうか。僕には魅力的にうつらない。あの学校で学ばせてやりたい、あの先生のもとで授業をうけさせてやりたい、という気にならないのだもの。たぶん、僕がもっと盈進学園のことを知れば違った意見も出るかもしれないけれど、もっと温かみのある、保護者や子どもに共感を呼ぶ夢と希望を感じさせる何か、地に足のついた何か、が欲しい。