広大附属福山中学入試狂「躁」曲

 今朝は余裕をもって出発するはずだった。午前4時ごろ、昨夜本を読みつつ撃沈したリビングのソファで目がさめて風呂に入った。そんなに長く入っていたつもりもないのに、出てくればもう午前6時50分。えっ、もうこんな時間?と、驚いた。たぶん、ここでひとつ何か大切な神経系が切れたのだろう。熱く火照った体を冷ます間、中国新聞に目を通した。ダボス会議もオバマ大統領頼り、という記事を読みながら、「根源的にはメシア願望、政治的にはボナパルティズムなんだよな」、と、元政治学科の独り言、作家の辺見庸氏が、「オバマには期待していない」と一刀両断で述べていたことを頭の片隅でちらっと思い出しながら、うーん、と考え込んでいた。ここでもひとつ何かもっと大切な神経系が切れたように思う。
 さて、と思いたち、「きょうは月曜日だから燃えるゴミ!」と、燃えるゴミをとりまとめた。いつもの行動経路をたどりながら、違和感があった。あれっ、パソコンバッグがないや、車に置きっぱなしかなぁ、やばいなぁ、と思って、外に出たついでに車をのぞくけれど見あたらない。あれぇ、と思いつつ、自動車のフロントガラスが氷結しているので、室内からジョロをとってきて溶かす。「じゃぁ、バッグは塾に置いてきたんだ、そういえば、昨夜は何か手元が軽いまま帰宅したよなぁ」と、不安な気分を無理やり丸め込む。合理性は何もない。
 午前9時から税理士さんと打ち合わせもあるので、その資料を手にとり、娘に頼まれていたファックス用紙も忘れていないことを確かめ、パソコンバッグが家にはないことをもう一度確認して出発した。確かになかった。
 塾に車を置いて、すぐに自転車で附属へ向かうつもりだった。まぁ、パソコンバッグを探す暇ぐらいあるさ、と呑気に構えて、塾まで安全運転。塾のドアを開けて、さぁ、ここだ、と思ったところには何もない。じゃぁあそこだ、と思ったところにも何もない。ああああああああっ、これって最悪の状況じゃない。どうするの?と思ったけれど、もし、紛失・盗難ということなら、パソコンからクレジット・カードを悪用されないように手を打たなきゃいけない。10秒迷って、手帳を開き、カード会社に電話して、カードの紛失届け(というか、再発行手続きというか、まぁ悪用防止策)をした。ここらへんで予定より5分くらいロスしていた。手続きそのものはインスタントに終了。2週間後に再発行、そのあとの手続きがちょっと煩わしい、らしい。
 まったくもうぉ、なんで附属の入試の日にこんなことになるんだろう。情けねぇ、個人情報の保護はどうするんだぁ、色々プライバシーに抵触する情報が入ってるぞ、バッテリーはすぐ切れるけれど、もしACアダプタを手に入れられたら、一巻の終わりだ。ああああ、どうすんだよぉ。
 真っ暗な気分で、自転車をこいで附属を目指していたら、どうも後輪の様子が変。出発前に前後輪とも空気を入れなおしておいたはずなのに、明らかに空気が抜けている。182号線はなんとか渡った。きわめて前途不安。
 泣きっ面にハチだぜ、これってホントぉ。もう信じられない。と半ばヒステリー状態で、進まぬ自転車を懸命に漕ぐ、漕ぐ、漕ぐ、で、引野交差点まで来たところで完璧アウト。それ以上自転車に乗るのは無理。まぁ、あそこに自転車屋さんがあるから、預けていけばいいか。と思い直したところで、携帯のアラームが約束の8時を告げる。また遅刻かよぉ。暗ぁい気持ちで、自転車の修理を依頼、「すぐには無理です。10時ぐらいになります」と言われたけれど、判断能力がない、考えるのも面倒で「お願いします」と、連絡先を告げて附属の坂をとぼとぼ登る。両脚が異様に重い。心身ともに疲労困憊。
 正門から入って、集合場所あたりにいくけれど、誰もいない、ウロウロするけれど見つからない。おいおいおい、このままかぁ、誰にもあわずじまいかぁ、それってありかぁ、と思いながら、目に付きやすいところに立って、キョロキョロしていると。「先生」と神の声。Fさんが「みんなあっちです」とニコニコしている。
 おお、マヌケな塾屋は、いつだって生徒に救われる!ほっとして、ついていくと、いつもの面々がニヤニヤ。おうおうおう、「ハグハグハグ」っと言いながら、恥ずかしがる少年たちをひとりひとり抱きかかえ、背中をポンポン。やーれ、すんだ、と、ほっとしていると、「おはようございます」と後ろから声、なんと保護者の皆様がた。あたたた、おそくなってすみません、と言いつつ、無意識に三平師匠のように額に手が動く。なぜか、毎年、生徒は目に入っても、保護者の方は気づかないのです。どうもすみません。
 とにかく下半身の筋肉疲労が忍びあがり、心臓がふだんより3倍重い。半ば喘ぎつつ、あたりの喧騒を眺めているのだけれど、パソコンバッグの行方が不安で、まったく冴えない気分だった。いつもなら感じる、福山の中学入試の沸点、その祝祭的な興奮を全然感じない。LECボーイズたちは、まったく緊張のそぶりもみせず、受付テントの行列の最前列にいて、ニコヤカにしゃべっている。いいんじゃないの、塾屋の出る幕じゃないね、と思って、遠目からぼんやり眺めていた。自転車屋から電話があって、修理が完了したとのこと、おや、流れのよいこと、これはひょっとしてひょっとするか、どこかにバッグもあるかもね、塾生が全員受かるか、うーん、こういう時はいいんだよねぇ。とほんのちょっぴり、気分が甘くなる。
 やがて時間が来て、彼らは校舎内へと消える。
やれやれ、と思いつつ自転車屋までまたトボトボ歩き、自転車を受け取って塾にもどる。パンクではなかった。どうやら接合部のゴム(ムシゴムとおっしゃっていた)の劣化らしい。帰りはタイヤがビンビンで漕ぎやすかった。ありがたや、ありがたや、でも、気分はそれほど晴れない。塾に着いて、期待をもってもう一度パソコンバッグの懸命の捜索、やっぱりアウト。どこにも見つからない。なまじ甘い夢をみたあとだけに、絶望の淵に沈む。仕方ない、できることをしよう、サブのパソコンを起動し、消えたパソコン宛のメールをすべてサブのパソコンに転送するように設定をいじっていると、税理士さん登場。
 S税理士は、気さくな人柄で、プーさん体型。実の兄のように親しみを感じているので、一切合財を聞いてもらった。「そりゃたいへんじゃのぉ、でも、車を取られんかっただけ、ええで」と巧みに話題をかえつつ、仕事をすすめた。ありがたかった、ちょっぴり面白がりつつ、ちょっぴり同情してくれて、ちょっぴり教訓を付け加えるという絶妙のアシストで、少し気分が軽くなった。仕事のあと、念のために、ネットショッピングに関係するサイトのパスワードも次々変更した。
 最低限の防御措置を施し、いったん自宅に帰って善後策を練ることにした。どうしても昨夜の記憶が曖昧で確信がもてない。いったいパソコンバッグはどこに置かれていたのか、車の中に一晩置かれていて盗難にあったのか、それとも、車に運ぶ途中で、塾のドア付近に一時的に置かれたまま放置され、紛失したのか。ぜんぜん思い出せない。気の緩みがあったのは間違いない。中学受験の指導が終わった、終わった、という気分で一杯だったから。
 最低の気分で玄関のドアを開け、家に入る。洗面所で手を洗おうとすると、妻がいる。「パソコンバッグがどこにもみあたらない」と言うと、「何言ってんの、そこにあるじゃない。あなたが自分でそこに置いたんでしょ」。およそ考えられる最高に嬉しい罵詈雑言を浴びながら、指示されたところに行ってみると、そこには靴屋(リーガル)にもらった茶色のトートバッグ。中には、NECのVersaPro。おおおおおおおおっと床に触れ伏し膝まづき、感謝、ひたすら感謝、神の栄光と仏の功徳を讃えた。
 いつもとは違うその場所にカバンを置いたときの記憶がかすかに蘇る。どうして目に付きやすいところなのに目にはいらなかったのか、、、、
カードの登録更新という煩雑な事務作業が2週間後に待っているけれど、個人情報の漏洩を防ぐことができ、日々の授業の支柱であるプリントソフトを奪還できたのだから、どんなことでもします、愚痴は言いません。セキュリティネットをもっと張り巡らして、何かあっても大丈夫なように、あちこちにロックをかけておきます。必ず指差し確認を励行し、パソコンバッグの所在をわすれるなんてことは絶対しません。ありがとうございます。たいへんありがたい学習となりました。起こりうることは、必ず起きるものだ、と今一度肝に銘じて、具体的な解を出し、実行します。神様、仏様、愚かな塾屋を正しい方向へ導きたまえ。

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 塾で執務開始。だるくてだるくてぜんぜんはかどらない。

 正午過ぎに、案内書を直接とりに来られた方がひとり。新中1の方だった。お急ぎのようだったので、手短にお話しして終わりにした。すみません、何かありましたら、いつでもお尋ねください。どうもまだまともじゃありません。

 午後1時過ぎ、電話。新小5の問い合わせだった。きょうなら5時まで空いています。とこたえた。鉛のような体を横たえて、眠くて眠くてしかたなかったので、ぶっきらぼうだったかもしれない。すみません、まだまともじゃありません。コーヒーを飲んで来訪されるまでにはしゃきっとしておきます。

午後2時過ぎ、生徒登場。おや、きょうは私服、ああそうか、もう学校はないのね、はい、がんばろう。

7:30
小6は、今日から英語・数学が始動。新年度用の案内書や2月の懇談会のお知らせ、更新用紙を配った。附属を受験してきた子たちも4名元気に参加。「先生、受験が終わって僕が一番したかったのは読書!」と言いつつ、青い鳥文庫の一冊を見せる。ふむ、とてもいいことだ。たぶん、この子は大丈夫だろう、根拠もなくそう思った。
 約束どおり、宿題なしで小6はお開き。

 中2のクラスでも、新年度用・懇談会関係書類を配布。時間割に生徒らのリクエストが反映されていないところが見つかって、訂正をお願いした。どうもなぁ、管理業務能力が異常に低下しているような気がする。
「危機感をエネルギーにかえる」(「ヒュガウイルス」村上龍)ことを試されている、、、背筋を伸ばそう。

中2は、円に突入。数学は一定の進度で進んでいるのだけれど、英語は現在完了で膠着状態、果てしなき持久戦に陥りそう。初期導入が荒っぽすぎたのかもしれない。受動態や比較の総復習もしなくちゃいけないはずなのに、停滞感が強い。次回、局面の打開をはかる。

 きょうの中3・三銃士は9時に終了。ターナーの明日の健闘を祈りたい。誠之館の選抜Ⅰに「参加」する少年・少女に幸運を!明るくさわやかにやってくれ、不確定要素が多すぎて結果を云々できなるような試験じゃない。

最後は、高校初級。
 授業終了後に名古屋大学の確率でバトル。何だこれぇ、と最後まで「躁」状態で終わる。

 明日は午後3時オープンです。
 学校が休みのひと、色々いるでしょ、時間を浪費する暇があったら塾に来なさい。自習室が君たちを待っている!!!