キンモクセイの

 甘い香りが街中に溢れている。窓を開けて車で走っていると、香りにつつみこまれているような錯角に陥る。脳のどこかでネジが緩んだに違いない、道を3回間違えて、同乗者に笑われた。
 いや、実はそうではないかもしれない。昨日、午前十時から午後七時まで、延々と受験対策に励んだ小6の子どもたちに、明日からセッティングするべきジャンピング・ボードをどうするかずっと考え続けていただけの話かもしれない。
 昨夜から、導入→反復→徹底→理解の流れのどこを強化し、どこを加速するか、ぐちゅぐちゅ考えていた。考えがまとまらないときは、何をしていてもずっと頭の中に牡蠣のようにこびりついてしまう。日常のルーティン・ワークはどうでもよくなり、意味もなく、あてどなく、想念をもてあそんでしまう。
 そういう時は、たいがい悪夢にうなされる。深夜「うわぉうわうわ」と叫んで目がさめた。人格の脆弱さを抱えたまま、塾屋になってしまった報いというべきか、夜中に目覚めて暗澹たる気分にどこまでも沈んでいく。
 一晩寝れば、たいがいどうにかなるものだが、そうならない時も確かにあって、メランコリックな心情を払拭できないまま、また、一日が始まってしまう。やれやれ、一朝一夕に解決できる問題などありはしないということなのだ。

 仕事に煮詰まってくるとろくでもない話にしかならないという典型的な一日。