さてしかし、こみいった話の続き

 問題は繰り上げ合格した二人目の少女には、同時に受験した姉がいたことだ。彼女も掲示板には番号がなかったが、繰上げ合格候補者通知は手にしていた。このままひとりだけ繰り上げ合格になり、ひとりだけ不合格になることなど、僕には耐えられなかった。
 小4からご縁があり、満を持して臨んだ中学入試で附属中学受験に失敗し、もっとも広大附属福山高校に合格しやすい中学校として、私立の女子中学を選び、はじめから受験する意図を持って入学していただいた。三年後の広大附属福山高校はいわば約束された未来として僕たちに共有されていた、と言ってもよかった。その三年間の指導を一度は完全否定された。どれほどの絶望に沈んでも足りなかった。それが、なんと一人だけは復活できた、じゃぁ話がまとまらない。
 なんとしても二人同時に合格してもらわないと立つ瀬がない。あまりにむごすぎる。そんなことを目の当たりにする勇気は僕にはない。無邪気な小5の子どもらを相手に、電話が鳴るたびにドキッとしつつ授業をした。そういう日に限って、入塾の問い合わせの電話が何本もかかってきたりするもので、そのたびに微妙な落胆を消しながら、できるだけ事務的にお話をしようとするのだけれど、声音のどこかに心の焦りがにじんでいたかもしれない。
 ほどなく、いまだ宙ぶらりんの彼女が現れ、すでに繰り上げ合格になった姉妹はテレビを見ているというのに、公立高校の過去問演習を始めた。もちろん、いろいろこまごまと置かれた状況のやるせなさを拝聴し、同意し、励まし、希望を語り、、、の上でのことだ。何もやる気がしない、とこぼしても仕方のないところで、彼女が黙々といつものように演習を始めたことは本当に敬服に値する事柄であった。リスニングも含めて4教科の演習を終わり、最後の国語に入った。
 電話が鳴った。またかよ、と思いながら電話をとった。このときは何のインスピレーションもなかった。「○○ちゃん、受かった、学校から電話があった」とTVを見ていたはずの妹からだった。寸瞬を置いて、事態が飲み込めた。ウォーと叫んだ。受かったぞぉ、よろこべ!来たぞ!やったぞ! おい、電話に出ろ、話を聞け!バンザーイ!
 彼女は、国語の問題演習を中止し、「もうしなくていいよね」と嬉しそうに、すこしだけはにかみながら帰宅していった。大団円であった。

 ということで、信じられないことですけれど、一日に補欠合格者が3名誕生しました。それでも全員合格ということにはならないので、決して手放しで喜ぶわけにもいかないのですけれど、少し気持ちが明るくなったのは事実です。4名の生徒が春から広大附属福山高校の生徒になるわけで、LECの後輩たちに大きな希望を与えてくれるものと思われます。というのも、4名中3名は、中学入試で一度失敗したけれど、志高く励んだ成果が報われたのですから。