突然、携帯電話がうなりだし、、、

 緊急地震速報だった。画面の「播磨灘で地震発生」「強い揺れ」の語句が朦朧とした頭を直撃した。こりゃ、阪神・淡路大震災の再来か、と思ったら揺れが始まった。ギクッとしたが、「たいしたことない、震度4もない、せいぜい3だろう」と思い、念のためにTVをつけた。マスターズをやっている。タイガーのショットをみるつもりはない。チャンネルを変えるとNHKでは、興奮を抑えきれないアナウンサーが、地震速報中だった。

 淡路島が震源で震度6弱。大阪南部と香川と徳島に5弱のマーク。先日読んだばかりの「兵士は起つ」が脳裏をかすめる。兵庫県の陸上自衛隊駐屯地では、災害派遣出動に備えて、隊員の方々が一斉に出動準備を始めたことだろう。

 6:11になった。幸い大きな被害報告はない。チャンネルを変える。マスターズは、タイガーがトップタイ、石川遼君が決勝ラウンド進出らしい。やれやれ、土曜の朝にふさわしいニュースはこっちだね。塾の教室の本棚から本が落ちてなきゃいいけれど、と思った瞬間、昨夜、設定したばかりのデスクトップ・パソコンが床に落ちていないかどうか不安になってきた。

 春期講習を先行実施していた初日だったか、午前中、自宅で執務していると、突然、メインでつかっていたノートパソコンの画面が真っ暗になった。慌てて製造元のNECに電話すると、バックライトが切れている恐れを指摘された、修理は2週間ほどかかるらしい。ハードディスクは生き残っているようだから、モニターだけ別に買ってつなげば、当面はしのげる、というアドバイスだった。塾近くのパソコン屋さんに寄って相談すると、同様な見立てだったので、1万ちょっとのモニターを買ってつないだ。日常業務に支障はなかった。が、しかし、不安が残った。バックライトの消えたノートパソコンのハードディスクを講習中そのまま使い続けるのはどうなんだろう。演習プリントをうちだすソフトは簡単にトレードできないにしても、管理業務をおこなうパソコンを用意するべきではないか。

 まず、デスクトップ型のパソコンを急きょ買い足した。ソフトの互換性を最優先してOSはWindows7. 馬鹿でかい本体の置き場に不自由する。何とか備え付けたものの設定する暇がない。ネット関係でもしトラブルと教室から動かせないだけに厄介だ。とりあえず、いつでも使えるようにして、保険としておいておくことにした。

 さいわい入退室カードを新しいシステムに切り替えたため、カードリーダーに使用していたネットパソコンがひとつ空く。ネットにはつながっているけれど、中身はほぼ空っぽ。当面はこいつをサブマシンにしようと思って、その夜、業務に必要なマイクロソフト・オフィス2010をネットストアからダウンロードした。ところが、インストールの途中で、プロダクトキィを認識してくれない。あれこれ試してもだめ。途方に暮れた。

 翌日、電話で相談窓口につなぎ、事情を話した。一人目の女性はプロダクトキィの誤入力をしつこくチェックしていたが、原因ではなかった。二人目の女性にまわされ技術部に転送、いらいらしながら待機中に休憩時間が終了し、意欲減退のまま結局未解決で春期講習を乗り切った。

 休みに入って三日目、やっと時間ができた。ふたたびマイクロソフトに電話。前回の経緯は向うに記録が残っていた。今回はさほど煩雑でもなく待機時間も短く、技術部の青年に電話がつながった。ネット関係のカスタマーサポート特有の早口で、やや耳障りな敬語を駆使して、状況の点検と再ダウンロードを次々指示される、いつものことながら、言われるがままにパソコンを操作していると無能感が湧き上がり、どんどん問題解決にすすんでいるにも関わらず、自己否定的な暗い気分に沈む。

 が、あれほど呻吟した最終局面をいとも簡単に難なくクリアし、あっぱれダウンロードとインストールが完了すると、気分は晴れ晴れ。情けなさも雲散霧消。カスタマサポートの声の主が神のように感じられるだけ。これは、真夜中にバッテリーが上がった車を救援に来てくれるJAFのお兄さんに抱く感情に近い。

 仕事のできるサブマシンの次はいよいよメインパソコンの入れ替え、昨晩やっと着手。本体裏面の電源スイッチのONとOFFを逆にしていたり、ロックを外し忘れていたり、無駄な操作を山ほどしたあげく、モニターひとつをハードディスクふたつが共有するあるべき姿に到達した。クラウド上にあるファイルやら外付けのハードディスクにバックアップされているデータを移管し、主兵装であるプリント・ソフトをトレードできれば塾のIT環境の再編が完了する。

 もう秒読みだ。しかし、それがスムーズに進むとはどうしても思えない。

 絶対、また、何かトラブルが起きるに違いない。

 しなくていいことをして、わざわざ徒労の沼に足を突っ込む羽目に陥るような気がする。

 なぜかって? 今まで必ずそうしてきたから。

 

 7:33、気象庁の会見がはじまった。

 もっぱら余震活動の注意を促すだけ。

 地震発生から7.5秒後に発信された緊急地震速報で始まった一日は、おおむね平和な朝を迎えたようだ。