退院しました。(2)

 塾講師から足を洗う、ことは、僕の予定表にはなかった。いやいまだにない。しかし。現役復帰するには乗り越えなければならないハードルがいくつもある。

 まず、滑舌の悪さは致命的だ。5か月の入院中に、ほぼ普通に話せるようになった、と思いあがっていたが、とんでもなかった。日によって、舌は動いたり動かなったり、気まぐれだ。藤井壮太竜王・名人の師匠杉本昌隆氏の著述を朗読していると、その日の状態がてきめん出てくる。ダメな日は呂律のおかしいこと、発声した音が、濁る、籠る、重なる。読んでいる本人があまりのひどさに本をとじる。稀に調子のよい日はまるで何も後遺症は残っていないかのように、すらすら読める。渡辺名人と藤井竜王の心理の綾が見事に解き明かされ、朗読しながら感動に心震わす。とにかく、舌の肌肉トレーニングを地道に継続するしかない。

 配信しようとするコンテンツも問題山積みだ。かつて行っていた授業をそのまま再現しても、臨場感のワクワクする授業を再現することはできないし、面白くって分かりやすい授業にはならない。右半身のマヒを抱えて、板書もままならない状態でコンテンツ以前だろう、と思う。まずは、伝えたいことを最低限伝える方法に腐心する毎日になるだろう。