対ブラジル戦

 負けることはわかっている。
 
 もし、万が一、勝てるとしたら、、、、
 試合開始前からの土砂降りの雨で、グラウンドコンディションは最低最悪の状態、すっかりモラールの低下したブラジルのスター選手たち相手に、前半から死に物狂いの中田英寿君が恐るべき運動量を発揮して、神がかり的なロングシュートをたてつづけに二本決める!後半に入って、目を覚ましたブラジル攻撃陣の怒涛の攻めを川口君が、スーパーセーブを連発して、クリアし続ける。二回、三回、四回、FKもCKもことこごとくはねかえす。一瞬、ロビーニョのゴールが決まったかに見えたシーンも、オフサイドで取り消し。そんな場面が三、四回あって、ロスタイム。
 2点差を死守しなければならない日本DF陣に、豪雨をついて、中央からカカのミドルシュート。バーをたたく、中沢君より一瞬早く、ロナウジーニョが突進してシュート、また奇跡的にバーをたたく、坪井君が体をはってクリアに入る隙に、アドリアーノの左足!川口君横っ飛び、誰もがあきらめた瞬間、神速ダッシュで右足を伸ばし、クリアした人こそ中田英寿。そこでホイッスル。その瞬間、日本チーム全員が土砂降りのピッチに倒れこみ、誰一人立つ気力も体力も残っていない。時が止まり、「ドルトムントの奇跡」として永遠に語り継がれる90分が完結する。
 しかし、結局、オーストラリアがクロアチアを下して、日本の一次リーグ敗退が決定する。
 その知らせを聞いても、中田君はさわやかにこたえる。
「決勝トーナメントに進めなかったのは残念なことですが、それ以上に、今日の試合でこのチームの本当の力を世界に認めさせることができて満足です。僕たちはもっと強くなれます」
 その後、FIFAワールドカップ・ドイツ大会の優勝チームとなったブラジルの選手たちは、大会後に一様に同じ言葉を口にした。「僕たちが優勝できたのは、1次リーグで日本の選手たちがみせてくれたファイティング・スピリッツのおかげだ」と。

 ああ、もう帰ります。すみません、村上の勝手な妄想でした。実在の人々とは何の関係もありません。