その後、DVD大会

 家族で鑑賞できるDVDは種類が限られる、性的・暴力的描写がなく、かつ、家族三人の嗜好の公約数におさまるものでなければならない。近年、裏切られ続けているのが「ジブリ」。我が家でその評価は地に堕ちている。「もののけ姫」は、物語が劇的な衝動性に走りすぎていてストーリーが完結していない、未消化のまま終わった、そもそも絵が汚い。「千と千尋」は、物語が破綻しており、何も描ききれないままで終わっている、少女の成長が丁寧に扱われているわけでもなく、ありきたりのモラルを野卑に描いているだけ。「ハウルの動く城」は論外。今まで使ってきた手法をザラッと寄せ集めて見せただけ、なんの感動もなく、なんの感激もない。そもそも戦時下のメロドラマという設定そのものが耐えられない。「ゲド戦記」は、「それなりに良かった」という娘の評価なんだけれど、僕は見ていないのでなんともいえない。ただのあの主題歌は、古すぎる、暗すぎる、という気がする。
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 宮崎駿とは対照的に、著しく評価をたかめているのが、アンドリュー・アダムソン。初めて「シュレック」を観た時はのけぞった。アンチ・ヒロイックファンタジーでここまで正統的に物語を作れるか、と心底感嘆した。その場で二回観た。「シュレック2」にも感嘆した。絵の美しさでも登場人物の性格描写でも完成度はより高まり、見事に前作を越えていた。そして、「ナルニア国物語」。ヒロイック・ファンタジーを今度は正面から原作に忠実に描き出した。実写の美しさ、CGの精巧さ、細部へのこだわり、どれをとっても完璧だった。彼が新作を作ったら次回も必ず観る、今度は劇場で観る、と思う。
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 ということで、昨日観たのは、次の三本。
「飛ぶ教室」エーリッヒ・ケストナーの名作の映画化。もちろん舞台設定は現代。ベルリンの壁をからめた話にしたのは秀逸だった。しかし、ケストナーの「エーミールと探偵たち」の映画版を観たときも思ったのだけれど、「子どもの世界」を描写する中心設定に「両親の離婚」と「貧しさ」を置き、子どもを環境に支配される客体として描きすぎている。だから、「よい大人」や「よい友人」があらわれて、環境が改善されると、問題は全て解決するような短絡的な発想に集約されかねない。主体として苦悩し、自我の成長を得るという視座が妙に置き去りにされている。
 子どもに近代的な自我の成長を求めないのなら、もっと原作に忠実に「心のあたたかさ」をしっかり描ききる姿勢を貫くべきなのに、人物の描き方が妙に半端で薄っぺらだった。やっぱり、1930年代の話を現代化するのは無理なんじゃないか、ケストナーにラップはあわない、と、個人的な趣味を振りかざしたくもなった。
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 その次は、「プリティ・プリンセス」と「プリティ・プリンセス2」。ご存知、ディズニー得意のシンデレラ・ストーリー。ふつうの女の子が、ある日突然、お姫様になって、さぁ大変、という、少女マンガあたりで使い古されたプロットで、ストーリー展開は、ことこどく見え透いてしまうのだけれど、それが嫌味なく、職人たちがきちんと仕上げているところに、ハリウッドの映画作りの成熟度を感じる。
 金をかければ、あれぐらい誰だって、という意見もあるだろうけれど、少女の成長とそれを見守る大人たちのあたたかい励ましと理解という、監督の明朗快活なメッセージは清清しいし、ジュリー・アンドリュースをはじめ、渋い脇役たちの落ち着いた演技は惚れ惚れするし、主人公も一生懸命で、まぁ、観ていて飽きない。休日の夜に二本立てで観るにはちょうどよかった。
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 で、以下は、プリティ・プリンセスの中で、主人公の父親が16歳の誕生日に贈った手紙の感動の一節。家人と二人して、娘にこれだけのことをいってやれる親になりたいものだ、と、話し合った夜更けであった。 

Courage is not absence of fear, but rather the judgement that something else is more importnat than fear. The brave may not live forever, but the cautious does not live at all.
From now on, you'll be traveling the road between who you think you are and who you can be. The key is to allow yourself to make the journey.

 勇気とは恐れないことじゃない、むしろ、恐れより大切なものがあると判断できることだ。勇気のある人が永遠に生きられるわけじゃないが、臆病だったら生きられない。
 これから、君は、ありのままの自分と、なることのできる自分の間を旅することになるだろう。大切なのは、その旅をためらわないことだ。

(村上訳)