すごい本を読んでいる

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)


 ルイジアナ州バトンルージュ市警に勤める婦人警官たちを主人公とする連作短編集。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀短編賞受賞。三月に池上冬彦氏が朝日新聞紙上で絶賛していた。
 四月ごろから読み始め、内容のあまりの重さにおののき、よろめきながら読み進んでいる。今読んでいる短編も、静かに濃く展開されるストーリーが心をつかんで離さない。全編、殺人と暴力に直面させられる、ごくふつうの良心的かつ個性的な若い女性たちが主人公だ。警官として社会的義務を全うしようとして、悩み傷つき、時に崩れ去り、時に確かに成長する姿を、まるで小川洋子が描くように静謐に克明に描き出している。
 とても塾の子どもたちには読ませられない、と思う場面描写が毎回出てくる。悲惨極まりない凄惨な場面設定が、細部にわたる的確な描写で異様にありありと感じられる。子どもには刺激が強すぎるだろう。理解できまい。
 主人公たちは、かつての著者であったり、あるいは元同僚たちであろう。彼女たちは、絶望的な状況において、人が人としてまっとうな生き方を選択する力強さと哀しさを体現している。
 しかし、それも、十代の子どもたちには複雑すぎる話だ。彼らは、もっとシンプルに一直線に勢いよく生きていくべきだ。一人の親としてそう思う。ねじれて屈折した人の世のありさまを、十分理解できるようになるには、それなりの経験が必要で、知らなくてよい世界を好んで知る必要はない、と思う。他に知るべき、もっと健やかで明るい初々しい肯定的な世界がある。大人にとっては郷愁の対象であり、いささか退屈で、予定調和的であっても、少年少女には、圧倒的な共感の源になる世界がある。
 じゃぁ、そういう本を紹介するべきだって?塾屋のマニュアルに載っている本は、塾に来ればある。「本貸してください」と、日々誰かがやってくる。
 だから、たまには、読んじゃダメ、っていう話もあってもいいでしょう。いつも、「これを読みなさい。いい話だよ」ってことばっかりじゃ退屈でしょう。
 大人になったら、読んでみて、と言って、きょうは終わり。