最近読んだ本

 新聞の時評コラム(中国新聞)で、小泉内閣に関して実に軽く屈託なく、しかし、見事にツボをついた発言をしていらっしゃる方がいて、「いったい何者?」と思って、調べてみると、数年前に話題をよんだ「不平等社会 さよなら総中流」の著者じゃないか。うーん、おもしろそうだけれど、統計的な資料に基づいた話は苦手なので、「桜が創った日本 ソメイヨシノ 起源への旅」(佐藤俊樹)を読むことにした。
 その直前に読んでいた「前衛仏教論」(町田宗鳳)が竜頭蛇尾でがっくり。途中までのグイグイ魂をつかんで離さない刺激的な仏教論が、後半失速、逸脱してカルトっぽく崩れて肩透かしにあってしまったのでちょっと斜に構えて読み始めた。新聞のコラム記事から、本を選択した経緯がまったく同じだったから、同じ結果に終わることを恐れた。しかし、今度は良いかたちで裏切られた。
 出だしから、「オヨヨ、なんだこのリズムの良さ」「縦横無尽、魔法の玉手箱のような引用じゃないか」と感嘆。その勢いのまま、ソメイヨシノの起源の謎解きと、ヤマザクラとソメイヨシノの対照的構図そのものが虚構であって、虚構の視座にからめとられたまま「桜語り」がおこなわれ、「日本」あるいは「日本人」が語られてきた私たちの近代を、見事にあぶりだしてくれた。
 ソメイヨシノを何かのシンボルとして決定論的に語るのではない、ソメイヨシノを巡るさまざまな言説を生み出す構造を明らかにし、「ソメイヨシノ学」とでも言うべき見事な体系的分析をなしとげている。その鋭利な感性と骨格の整った論理は、まるで、「日本の思想」で丸山真男が見せてくれた切れ味に勝るとも劣らない。社会学という学問のおもしろさを知るには最適の本。筆者はまさに現代日本の柔軟な知性の生きた見本というべき方です。
前衛仏教論 (ちくま新書) 桜が創った「日本」―ソメイヨシノ 起源への旅 (岩波新書) 日本の思想 (岩波新書)