ティム先生のこと

「オハヨウゴザイマス」と満面に笑みをたたえた言葉が上から降ってきた。

彼は、娘が授業をとっているアメリカ政治学の教授。あるとき、娘がアドバイスを求めて個人的に話をしてから、彼女の留学生活が一気に深みを増した。以後、何くれとなく助力をしてくださっている。お会いできる機会があれば、是非お礼を申し上げたいと思っていた。

長身で頭のはげあがった小ぶりの顔に、とび色の目がくるくるとよく動く。言葉の端々に慈愛があふれ、知性と教養がにじみ出る会話を如才なく続ける。「あれが紳士よね」と、あとでため息をつきつつ妻が感慨深げに語った。まことに、まことに。

「アメリカ中産階級のホスピタリティってすごいでしょう。助けてやるって言ったら、ティムは本当に何とかしてくれる。ワシントンD.C.の研修プログラムも彼のおかげで実現できた。脅威的な記憶力の持ち主だし、人間としてピュアだし、、、」娘の賛辞もいちいち頷ける。

社会的ステータスを誇示することは微塵もなく、ひとりの人間として対等に接し、村上の拙い英語にも真剣に耳を傾け、真摯に返答をしてくださる一方で、6日朝、突然の雪景色を「キレイ」、娘のキャラクターを「スゴイ」とユーモアたっぷりに上手に日本語を使いながら語る気さくさで、わしたち夫婦を虜にしていった。


あんな人になりたい、あんな人物になりたい、と、国籍を超えて感じさせる人間的魅力の源がどこにあるのか、言い換えれば、自分になくてティム先生にあるものは何か、SLCを去る飛行機からネバダの砂漠を見ながらぼんやりと考えていたが、その懸隔のはなはだしさに圧倒されるばかりだった。